ティムロビンスに激似

お嬢さんのティムロビンスに激似のネタバレレビュー・内容・結末

お嬢さん(2016年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

圧倒的なものを観てしまった…

和洋折衷の荘厳な上月の屋敷には、膨大な蔵書を蓄える蔵がある。
蔵の入り口にはコブラを模した像が鎮座し、その両脇を巨大な本棚で固めた廊下が、奥の広場まで貫いている。

奥の広場は円形劇場のような構造の空間になっており、真ん中に机が設えられている。
その片方に上月が座り、筆を舌舐めずりしながら物書きをしている。
その対面に上月の姪に当たる秀子が座り、本を音読している。

夜な夜な繰り広げられる、その妖しい営みを、侍女"珠子"が覗き込む。
その刹那、"珠子"の目の前に勢いよく鉄格子が降りてくる。

秀子は決して「深窓の佳人」であるだけではない。
上月の屋敷や妖しい蔵は監獄であり、秀子はそこの囚人である。
また、秀子は物理的に囚われているだけではない。
秀子は、「男性」に囚われ、「男性」により身も心も日々蹂躙されているのである。

秀子の遺産を狙う"伯爵"は美を所有すること、ひいては「女性」を征服し所有することに関する思想を上月に語る。
上月と"伯爵"の会話における、あまりに身勝手でおぞましい「男性」目線の語り口は、本作の最大の敵である「男性」を如実に表している。
社会的に圧倒的弱者にされている「女性」の象徴たる秀子は、その美貌と頭脳をもって「男性」という巨悪に対抗しようとする。
そこに現れるのは白馬の騎士ならぬ、天才女スリ師であり、伝説の「大泥棒」の娘、スッキである。
そう、本作は「男性」に囚われた「お姫様」を「大泥棒」が助け出すという(ちょっとどこかで見たような)ヒロイックストーリーなのだ。

また、支配する「男性」と支配される「女性」という構図は、本作の舞台でもある日本占領下の朝鮮(韓国)とも重なるものがある。
原作のビクトリア朝時代の英国から、太平洋戦争中の朝鮮(韓国)に舞台を移した意義は、ここにあるのだろう。

嘘と欺瞞に満ちた「男性」達に対し、スッキの秀子に対する愛はあまりに真っ直ぐだ。
秀子もまたその愛に応えるように激しくスッキを求める一方、自身の純潔を守るため、異様な「初夜」を"伯爵"と過ごす。
その鬼気迫る演技は見ものだし、スッキと秀子のエロティックな絡み合いは「芸術」としか言いようがない。
(がっしと手を繋いでの「貝合わせ」や、ラストシーンの「鈴」を使った2人の絡みなんて、もうッ!蠱惑的ッ!秀でた美しさでございますッ!)

一方で、春画などの日本文化を否定的に描いておらず、むしろリスペクトをもって描いているのも本作の白眉な点だ。
韓国人の役者が、日本人役を確り「日本語」で演じ通しているところにも、それを感じずにいられない。
登場人物のアモラルな思想が開陳される様は、江戸川乱歩や夢野久作を彷彿とさせる。
キチ○イ病院が出てくるところも夢野久作テイストを感じるし、異様なジャポニズム描写の数々は鈴木清順へのオマージュが見て取れる。
しかし、それをユニバーサルなエンターテイメントとして、映画作品にまとめたパク・チャヌク監督の手腕に感服し、観劇後は冒頭の通り感嘆した。

圧倒的なものを観てしまった…