むさじー

河内山宗俊のむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

河内山宗俊(1936年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

<粋なセリフとスピーディな展開で魅せる戦前の時代劇>

浪人・市之丞のセリフが秀逸。
「人のために喜んで死ねるようなら、人間、一人前じゃないかな」
「ここがわしの潮時だ。人間、潮時に取り残されると恥が多いというからな」。
侍であることに愛想を尽かした無頼漢なのだが、悪人というわけではなく、純情な一面も備えている。
小柄を盗まれ切腹かもと心配する旧友に「それでいつ腹を切りますか」と、権威を鼻で笑うような彼の態度、盗まれた小柄がセリに掛けられ、そのことが宗俊のゆすりのネタになるところなど、侍社会が徹底的に茶化され、現代にも通じる軽妙な会話でコミカルに描かれている。
製作の時代背景でいえば、本作の翌年に支那事変に突入という、キナ臭い世の中を笑い飛ばしたい気持ちがあっただろうし、命の終わりを見据えた切なさが感じられる。
もう一つの魅力は、デビュー間もない原節子の美しさ。清楚な輝きの中に、15歳とは思えない色香が漂い、この映画で小津の目に留まったという。
本作の年、山中は何と26歳、翌年中国に出征し、翌々年中国で28歳の若さで戦病死した。
発表作は26本あるが、現存するのは本作を含めて3作品のみ。本作もトーキーへの移行期で、録音状態は著しく悪く、セリフが聞き取りにくいため、リマスターDVDには字幕が用意されている。
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