ひでやん

過去のない男のひでやんのレビュー・感想・評価

過去のない男(2002年製作の映画)
3.9
暴漢に襲われ記憶を失くした男が、周囲の人たちに助けられながら希望へ向かう姿を描くカウリスマキ監督の敗者三部作の第二章。

冒頭からいきなり悲劇!もう敗者。運び込まれた病院で意識を取り戻し、そこから抜け出して知らない土地にたどり着く男。彼の過去が明かされないまま物語は進む。

友人や知人との会話は、相手が自分を認識しているから自分が何者なのか確認できる。人は過去を持ちながら今を生きている。

主人公の男は知らない場所で知らない人と触れ合う。過去の断片を拾い集めて苦悩するわけではなく、目の前にある今を生きる姿は前向きだ。

「人生は前にしか進まない」

コンテナ暮らし、ホームレス、失業者、救世軍の食糧配給など、ヘルシンキの貧しい港町が舞台となっているが、そこには優しい人々の温もりがある。

掛け算の誤答、大人しいハンニバル、クレイジーケンバンドに日本酒と寿司など、ユーモアな場面も多い。

後半で過去が明かされるが、男には友がいて恋もしている。過去へ戻らず今を生きる男は、敗者復活戦から這い上がり、第二の人生を歩いている。

絶望の中に希望があり、口下手で不器用な大人のラブ・ストーリーにほっこり。

バーの壁に飾られていたマッティ・ペロンバーの写真にジンときた。
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