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スモークのろのレビュー・感想・評価

スモーク(1995年製作の映画)
4.5

「物事が起こるか起こらないかはその時次第。何が起こるか分かると思ったときは実は何も分かっちゃいない。それがパラドックスだ。分かるか?」

クリスマス映画を観よう 第7弾!


大阪でのリバイバル上映は12月末。
待ちきれず、レンタルしてきました。

これは男の人が好きな映画かもしれないなぁ。
多くを語らず「俺の言いたいこと、分かるだろ?」と観客に委ねるこの感じ。
人は語らず、タバコの煙が物語る映画です。


”ブルックリン・シガーショップ”
タバコ屋の店主オーギー。彼は毎日同じ時刻、同じ場所で写真を撮ることが日課。
オーギーのお店の常連、作家のポールは妻を亡くして以来、仕事が手に付かずにいた。ある日、ポールは車に轢かれそうになったところを少年ラシードに助けられる。

「明日 明日 明日・・・時は同じペースで流れる」
オーギーが撮影した写真をポールに見せる場面。
毎日欠かさず撮った写真は4000枚にも及ぶ。
同じ場所の写真ばかりなので適当にページをめくるポール。それに対しオーギーは言う。
「1枚1枚ゆっくり見なきゃダメだ。1枚として同じ写真はないのだから」
まず天気がちがう。良く晴れた日、どんより曇りの日、冬の凍えるように寒い日、夏の日差しがぎらぎら照り付ける日。それによって道行く人の服装も様々。Tシャツ、半パン、セーター、コート。さらに週末か平日かによって人通りも車の通りも異なる。
そして時の流れと共に自分は年を重ね、顔なじみの常連も消えていく。同じ時は一瞬たりともないのだ。


印象的だった2つのカット。

オーギーの娘(?)とのやり取り。
彼女は激しく反発し、ありとあらゆる暴言をぶつけてくる。
親の援助なんていらないし、頼んでもいない。
娘の言う通り、オーギーたちは帰ることに。
彼らが去った後の娘の表情が、もうたまらなく好き。
泣き出しそうな、情けない表情。
反抗したことを後悔しているような、あんなこと言わなければ良かった、ひどいことを言ってしまったと思っている表情。
けれど、自分の人生に覚悟している表情に変わる。
恋人に支配されているから仕方ないと諦めているようにも見える。
こういういろんな想像ができる場面は本当に魅力的で、素晴らしいな。

もう1つ、好きだったカット。

ラシードが実の父に「自分はあなたの息子だ」と打ち明ける場面。お父さんは動揺を隠しきれず、ラシードと取っ組み合いになる。
その後、ピクニックをする。
誰も話さず、ただタバコの煙がゆるやかに漂う。
ラシードとお父さんの間には新しい奥さんと小さな赤ちゃん。
ラシードは優しく赤ちゃんの頭をなでる。

この場面には「このタバコ試してみますか?」「じゃあ・・・」というやり取りしか出てこない。けれど、ラシードとお父さんが「何て話を切り出そう」と考えている様子、新しい奥さんが「何か声を掛けたいけど、2人の問題に首を突っ込んではいけない・・・」と思う気持ちが伝わってくる。

そして、自分の気持ちを行動で示すラシード。お父さんの新しい子ども、自分にとっては義理の兄弟。その子の頭をそっとなでるラシードを見ているとじんわり温かい気持ちになる。

走る電車。
線路はくねくねとゆるやかにカーブ、そしてまたまっすぐ。
電車の線路のように思い通りにまっすぐ進めることもあれば、思いがけずカーブに差し掛かることもある。
人は、人生は、複雑で単純だ。



エンドロールもお見逃しなく!
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