シュトルム凸映画鑑賞記録用改め

小さな中国のお針子のシュトルム凸映画鑑賞記録用改めのレビュー・感想・評価

小さな中国のお針子(2002年製作の映画)
3.9
文革期、絶景に舌を巻く中国の秘境ともいうべき田舎に下放された都会の二人の青年。二人はお針子というあだ名の女の子と仲良くなり、彼女を文学で無知から救おうとする…。
もう冒頭部から心を鷲掴みにされますよね。文革期なんで、村長が思想的難癖をつける。どうもこの村長、単に文盲なので都会の恵まれた若者にコンプレックスがあるだけの様なのだが…しかしどこか憎めない人物である事が話に深みを増している。
バイオリンなど見た事もない村長は、西洋音楽を初めて聴かされて何という曲なのだと問い詰める。窮した青年は「モーツァルトの『毛主席を想って』だ」、村長はかしこまってうなづき、「そうだ、彼(モーツァルト)はいつも毛主席の事を想っているからな」…農村のどうしようもない無知が鋭く切り出され、そこに何ともいえない滑稽さと哀しさが込められたシーン。想い出すだけで涙が出ますが、これがまだまだ冒頭部。
青年たちは町に出て代表として映画を観てきて、村で再演してくれと頼まれたり、いつも同じ映画なので、隠し読んでた小説をネタに、監督はバルザックだと言ってお話を作ったり。
やがてお針子も含めた三人の若者の、知識と自由と外の世界への渇望は、彼らの人生をも大きく変えていく。
辛い時代だからこそ後から振り返ってみれば、美しい事ばかりを想い出す。功成り名遂げても本当に欲しかったものは手に入らない。過ぎ去った青春と時代への哀惜が見事に描き出された作品です。