こたつむり

白昼堂々のこたつむりのレビュー・感想・評価

白昼堂々(1968年製作の映画)
3.6
♪ 守るも攻めるもクロガネの

かつては賑やかだった炭鉱町も廃墟同然となり、住人はスリや万引きを生業としていた。人は其処を“泥棒部落”と呼ぶ…。

と、あらすじだけ読むと重苦しそうですけどね。実際には軽妙かつ軽薄な筆致。冒頭からして、コント55号のやり取りに思わず口角が上がる次第。

ただ、根底にあるのは困窮した弱者の哀しみ。
何しろ1968年の作品ですからね。戦後から20年以上経っていても、路地裏には残滓が転がっているわけで。食うや食わざるや…の生活が鼻先に存在するのです。

だから、登場人物たちに共感できるのですね。
渥美清さん、藤岡琢也さん、田中邦衛さん…と実力派俳優たちが瑞々しく立ち振る舞う姿は素晴らしく。ググっと前のめりでした。

何よりも、倍賞千恵子さんですよ。
後年の御姿しか知らないので、母親と同世代の印象しかなかったのですが…いやはや、こんなにチャーミングだったとは…。色々と複雑な思いですね。

また、物語の舞台となるデパートも。
現代の視点で捉えると“潰れそうな古い百貨店”にしか見えないのですが、当時はキラキラと輝く存在だったのでしょう。歴史の積み重ねを実感しました。

まあ、そんなわけで。
昭和の香りを楽しむことができるコメディ。
良い悪い…なんて簡単に言えない手触りが人を選ぶかもしれませんが(デパートだから盗んでも心が痛まない…のは微妙なところ)それこそが人間社会の縮図。さすがは野村芳太郎監督ですね。

だから、批判を恐れずに言うならば。
ある意味で是枝監督の『万引き家族』の源流。
盗みの手口は瀟洒にほど遠く、野暮ったさが先立っていましたが、泥をすすってでも生きていく“逞しさ”は時代が変わっても同じでした。

勿論、万引きやスリを擁護する作品ではありません。「万引きの映画を作るなんて日本の恥さらしだ」なんて仰る御仁がいましたが、本作についてはどう思うのか、伺ってみたいものですね。
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