滝和也

日本侠客伝 血斗神田祭りの滝和也のレビュー・感想・評価

日本侠客伝 血斗神田祭り(1966年製作の映画)
3.9
神田火消しの意地と
渡世の仁義が綾なす時

同じような、なさぬ仲
の宿命をもつ
二人の漢が、白刃に
身を晒す!
ただ…愛した女が為…

「日本侠客伝 血斗神田祭り」

名匠マキノ雅弘監督が送る東映任侠路線のシリーズ第4作。その、スタイルは完成され、前作のようなスケールの大きさは無いものの、その人の持つ感情が複雑に絡み合う見事なストーリーが展開されている。特に流れ者の渡世人長次(鶴田浩二)と神田に根付く火消しの新三(高倉健)の二人に折り重なるような背景を持たせ、ラストの殴り込みにつなげる辺りが真骨頂。泣かせてくれます!

神田の老舗呉服問屋沢せいの若旦那は高利貸しと新興ヤクザの大貫に騙され不動産の権利を巻き上げられそうになっていた。若旦那の昔なじみであり、奥方の花江の想い人だった火消しのよ組の新三は二人を助けようと奮闘する。大貫組にわらじを脱いでいた侠客長次は沢せい潰しを手伝うよう言われるが断る…長次にも、なさぬ仲だが、一緒に関西から逃げてきたトウがいて病を患っていた。また二人の宿を世話したのがよ組の頭だった、たがドギたねぇ大貫は頭に遂に手を掛け…。

任侠モノのまさにピークを迎えた見事な我慢劇であり、正にハードボイルドの極みです。ハードボイルドとはやせ我慢であるという定義がありますからね…(^_^) 敵である新興ヤクザのやり口はいつもながらなのですが…ここにもう一つなさぬ仲という美しい我慢劇が加わり、それが二重奏…いや四重奏のように、奏でられる。

元芸者で新三に恋していたが…金で買われ沢せいの若旦那と結婚した花江に東映任侠路線に大輪の花を咲かせた富司純子様。若旦那を亡くしいじらしくも悲しく儚げで、時に熱く新三こと健さんへの気持ちをぶつけるヒロイン。幼なじみへの義理立て、金もなく貰い受けできなかった引け目、店をもり立て再興を手助けしなければならない火消しの立場で愛していながらも愛に答えられず扶ける新三に我らが高倉健さん。

そこに、もう一組のなさぬ仲をくみこんで展開されていく脚本の妙。関西淀半組の娘で親の反対に会い飛び出したが身体を患うトウさんに若き野際陽子さん。愛しながらも組長の娘と代貸である立場から許さぬ仲になってしまった長次に鶴田浩二兄貴!この2つのなさぬ仲が、二人の漢たちの、道を決めていくわけです。

泣かせてくれたシーン。長次の殴り込みシーン中にカットバックで子分たちと長次の嘘に説得され上方へ汽車で帰るシーンが、挟まり…「あのヒト今頃なにしてるやろ」「きっとトウさんのことを考えながら飲んでますやろ」その、セリフ直後、相手を何人も斬り伏せながらもズタズタに斬られ、必死に仁義を通すため花江さんたちを守る長次、鶴田浩二さんが映るわけです。もう涙が止まらない…。

決め台詞や行き道など残侠伝の様に完全にパターン化されてはいない侠客伝ですが、それ故に自由度があり、今回はこの見事な二重奏が涙を誘い、鶴田浩二と高倉健さん二人の役者の味が見事に出ていたかと思います(^_^) 泣けますね。
滝和也

滝和也