秋日和

女咲かせますの秋日和のレビュー・感想・評価

女咲かせます(1987年製作の映画)
4.5
家の中で舞う吹雪もあれば、木の下で舞う吹雪もある。家の中で咲く花火もあれば、海岸沿いに咲く花火もある。どんなに馬鹿げた無茶でも、この人なら大丈夫なんだと思わせてくれる強さが、森崎にはあるような気がする。
嘗てはあった筈のものが今はないという寂しさ。そして、これから多分なくなっていくのだろうと思ってしまう切なさが作品の冒頭付近で囁かれたとき、うっかり感動してしまわないようにしようと覚悟を決めた。その後に登場する役所広司が、自身のチェロを「全然安物なんだこれは」とブツブツ文句を言いながらも大事そうに布で拭いてあげるシーンを観てその覚悟があっさり揺らぎそうになったけれど、まだまだ序盤だぜと自分に言い聞かせた。油断していると泣きそうになる。それが森崎の映画だからだ。
映画の中盤、窓と格子の存在が矢鱈と気になってくる。そしてその二つに絡まってくる幾つもの視線も相まって、これはいよいよマズいかもと思ってしまった。泥棒である松坂慶子と彼女を監視する刑事、彼女に思いを馳せる役所広司。誰が誰に対して視線を送り、そしてその視線にはどんな感情が込められているのか……全てがどうしようもなく直球で面白い。視線を辿って出来上がる多角形(或いは星座と言ってもいいかもしれない)は本当にお見事だ。線は窓や格子なんかに構うことなく真っ直ぐに伸び続け、跳ね返されても微動だにしない。
上昇と下降を繰り返した松坂慶子の人生。エレベーターのシーンは勿論、泣きながら駆け降りる駅の階段や、覚悟を決めて上る警察の階段もそうだろう。じゃあ最後は一体どのように足を運べば彼女は幸せになることができるのだろうか……たぶん、あれ以上に馬鹿馬鹿しくて笑っちゃう答えはないと思う。でも一方で本当に力強い解答=ラストでもあったんだから拍手を送らずにはいられない。凄く面白かった。XデーはX'mas。
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