けんたろう

月世界旅行のけんたろうのレビュー・感想・評価

月世界旅行(1902年製作の映画)
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力学、工学、及び万物の理わりをガン無視したおはなし。


いやあ、観てしまつた。「初めては劇場で!」なんて思うてゐたのに……いやあ、観てしまつた。
劇場上映と云へば本作、確か何年か前に鎌倉か何処かで上映するとかしないとか、其れを非常に楽しみにしてゐたんだけれども、結局コロナで中止に成つたんだつたか、自ら断念したんだつたか──もう記憶がふわふわぷるぷる曖昧模糊。兎にも角にも……いやあ、観てしまつた。

さて、世界初のSF映画にして、初の物語映画とせらるゝ本作。
(私しに取りての)前評判どほり、矢張り意慾的な表現に富んでをる。愉快で豪華なる美術に、トリツクとも云へよう様々なる特殊効果など。観てゐて非常に楽し。
又た、サイエンス・フイクシヨンなれども、終始滑稽に描かれてをり、其の非現実性とユウモアの融合せし独特なる表現にも、強く目を引かる。中でも、映画史上最も有名と云うても過言ではない、彼の月にロケツトがぶつ刺さつたワン・シヨツト──最早や珍味である。現代映画に慣れてしまうた身からすれば、此の奇妙奇天烈摩訶不思議なる描写は、畢竟珍味である。

因みに此のたびは、(図らずも)彩色版なるものを観賞した。成るほど、見てゐて目がチカチカしはする。然し、舞台美術の細やかなる箇所が色鮮やかに見ゆるのは、頗る好い。ヘンテコなる面白さも一入観ぜらる。

さて、凡ゆる映画研究者の研究対象と成りたる(らしき)本作。成るほど、観たのちも大へん興味深く “鑑賞” でく。何やらドキユメンタリ映画も製作されたるやうなので、其方も是非観たきところである。