ぼぶ

霧の中の風景のぼぶのレビュー・感想・評価

霧の中の風景(1988年製作の映画)
4.2
対比に次ぐ対比、そしてリアルと虚構の絶妙な配合、その結果生まれたのがこの淡い幻想譚。


この作品、映画に希望やアクションや明快さを求める人には、決してオススメしない。
逆に映画の中における監督の意図や描写の意味、不思議さを考えること、余韻…これらを見つけたり、これらに浸れる人にはとってもオススメ。

ストーリーはとてもシンプル。
小さな姉と弟が、父に会いに旅に出るロードムービー。でも父には会ったこともなく、存在もわからない。

全編通してロードムービーらしい埃っぽさは全くなく…その代わり、色んなシークエンスにおいて彩度の低い画作りの中、雨や雪や霧が立ち込める。
ロングショットや長回しも多用され、ただそのバランスが良く幻想的な世界観の構築に一役かっている。
まるで絵画のように画の方が台詞より饒舌であるところも多い。

そして印象的なのは、対比や強調のシーン。
雪に大人がはしゃぎ、時が止まる。
華やかな結婚式の目の前で馬が死ぬ。
海辺の旅芸人。
黄色いカッパ。
バイクが集う混沌。

リアリティのある話の展開の中に、こうしたアンバランスな要素を少しずつ足していって、最後は海中から右手の石像を引き上げてしまう。
このバランスが絶妙だから…観る者はリアルと虚構の境目を、自分の中で気持ち良くぼやかすことが出来るのだろう。

もちろんロードムービーらしく子供らは成長するし、事件も起こる。お話を語るね等の台詞も、いくつか刺さるものもある。
でも、それよりも、この世界観とテンポ感に浸っていたい。

ラストにも監督のスパイスが効いている。

銃声?あれフィルムと同じ?でも深い霧の中に木が1本ってのは青年の嘘だったんじゃ、でも木を抱きしめてる?

…いやいや、これは幻想譚。二人が見出した、霧の中のお話。
それらを考えること自体が野暮なはず。
二人は恐くないって言ってたし、全ては霧の中に預けよう。
ぼぶ

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