霧の中の風景の作品情報・感想・評価

「霧の中の風景」に投稿された感想・評価

Tyga

Tygaの感想・評価

4.3
世界にたちこめる霧の中のその先には、光があるはずだと信じて歩く。
まだ旅の途中なのだから。

割と正統派に近いロードムービーのような体裁をとりつつ、芸術品の長回しと急なファンタジー(雪で全員が上を見上げて立ち止まるところなんて、とても幻想的だった)に、紛れもない作家性。

この映画が出来た1989年は、鉄のカーテンとベルリンの壁崩壊、冷戦終結、天安門事件etc…
ひとつの世界が終結していく中で、指をなくした手はどこを指差そうとしていたのか。

このレビューはネタバレを含みます

巨大な施設や建造物、冷酷な大人たちに
圧倒されながら、まだ顔も知らない父を
探して、懸命に抗う姿が切なかった…。

人の配置や導線、構図、長回し、
光と陰、色彩感覚。
映画のどのシーンを切り取っても美しい。
とても残酷で絵画的で好きな映画。

2019#31
この映画が自分に何をくれたかはわからない、けど、もっと早く観ればよかった。
胸がいっぱいになる、圧し潰される、震える、そんな瞬間が、映画の中にたくさん、たくさんあった。

2019#023
マヒロ

マヒロの感想・評価

5.0
顔も知らない父親に会うため、ギリシャからドイツまでたった2人で旅に出る姉弟のお話。

何も知らない幼い子供が、お金も持たずに飛び出したらそれはもちろん上手くいかないわけで、2人はあらゆる困難に直面することになる。恐ろしいのが大人たちの無関心ぶりで、途中で出会う旅芸人の一座以外は、子供達にとことん冷たい態度をとる。
頼ってきた姪と甥を邪険にする伯父や、親切なふりして最低なトラック親父も酷いが、警察署に保護された2人を他所に、警官たちが「雪が降ってきたぞ!」とか言いながら無邪気に飛び出していくシーンは、その後の時が止まったような描写が美しくもありつつ、すぐ側の子供に気が付きもせずにいる大人たちの様子がひたすら不気味でもある。
無力さを象徴するかのように現れる巨大なオブジェクトも印象深くて、大規模な工場、馬鹿でかい掘削機(?)、海に落ちた石像の右手など、圧倒的なビジュアルとその前に立ち尽くすしかない子供たちの図が恐ろしかった。

地理にはとんと疎い自分でもあれ、と思うくらいにはギリシャとドイツは離れすぎているけど、その現実味の無い距離感がまた無謀な旅であることを強調する。そもそも探している父がどんな人なのか、というか存在しているのかすら全く分からないし。『こうのとり、たちずさんで』でも国境は一つの大きなテーマになっていたけど、監督にとって国境は大きな断絶のようなイメージなのかなと思った。

そんな絶望的な流れの中でも、心の拠り所となる旅芸人の青年との交流シーンは心温まるし、反対に寒々しいシーンの雰囲気づくりは抜群に上手くて、随所に挟まれる詩的なビジュアルはインパクト大と、常に心揺さぶられ続ける一作だった。

(2019.36)
法月

法月の感想・評価

4.0
アートな映画を観てしまった。
この不条理なシーンにこめられてた意味は?....などと考えるのは苦手だが、映像の持つ魅力の凄さよ。

無垢な子供が理不尽に残酷な目に遭うところなんて観たくはない。
だが12歳の姉と5歳の弟、一度観始めてしまったら、このふたりから目が離せない。

父を訪ねて何百里? 鉄道無賃乗車にヒッチハイクの旅。出会うのは優しい人もいれば、糞みたいに酷い奴もいる。
幻の父がいるというドイツに希望は待っているのか?
そんなはずはない、観てるこっちは虚しいだけ。心が締め付けられる。


ギリシャについての知識はほとんどないが、美しいエーゲ海に囲まれ、燦々と降り注ぐ太陽に照らされた国ではなかったか?
この映画の空は、全てどんよりと曇っている....

観終わっても楽しいわけはない。
けれど、この映画の風景ひとつひとつが深く心に刻まれてしまった。
あ

あの感想・評価

4.1
生きていれば、どうしたって納得できない不条理な出来事が起こることもあるし、そしてそれにはいつも痛みが伴うものだけど、それでも自分には為す術などなく、世界は一向に変わらず、ただ淡々と時間だけが過ぎていくことを、俯瞰での長回しや彩度の低い美しい映像に思い知らされる。でもそんなことを思い知るのは大人になってからでいい、子供は楽しそうに笑っててくれなきゃだめだよまじで、、
とにかく長回しのシーンがいちいち良過ぎた、海辺でのシーンが好き。
アンゲロプロスといいエリセといい何でこんなに曇り空を魅力的にとらえるんでしょうー
新海誠的な逆光でフレアいれるようなものとは逆のやり方なんだけど、本当に綺麗、ああいう絵って綺麗だけど、コントラストなくてのっぺりしてるんだよなぁー
あとベルトルッチもそうだけど国と映画史(芸術全般ともいえるけれど)をごっちゃにしてるの好きです。
小さな身体の背景に大きなオブジェクトを挿入する画面づくりによって、
彼女らが目の当たりにする世界の巨大さを感じる

テオアンゲロプロスやはり素晴らしい
Soseki

Sosekiの感想・評価

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アンゲロプロスのすべての作品を見ているわけではないが、永遠と一日などは積極的に好きな部類。
が、この作品は子どもが理由なく辛い目に合うだけなので、受け付けなかった。
コメント欄に詳細。この手のものは苦手な人もいると思うので書いておく。
No.788[名作はヘリで石像を運びがち] 98点

アンゲロプロスは紀伊國屋版の箱を揃えている最中に再販されたせいで様々なやる気を失ったため、多分好きなんだけど放置していた。最近は色々な理由で放置していた映画を回収して回っているのでそろそろ精神がイカれてくる頃なんだけど、多分鑑賞作品の半分を裏垢に流してるあたり既におかしくなってるのかもしれん。

去年の9月あたりにヤンチョー・ミクロシュに洗脳されて以降、ロングショットと長回しが大好きになっちゃったんだけど、この時期にアンゲロプロスをぶつけたのは正しい判断だったように思える。誰も居ない食堂でバイオリンを弾く老人とそれを聴く少年。白飛びしたフィルムを掲げ、それに近付くカメラ。海岸でそれぞれが自分の台詞を練習している劇団の間を通る姉弟。カメラに語りかけるアコーディオン弾きに対して遠距離から中距離に走ってくる座長を見守る劇団員のショットは正にヤンチョーっぽい。粗野なトラック運転手との邂逅を経て、オレステスと再会する。姉弟とオレステスの別れのシーンは久し振りに心が震えた。

多分死んでるラストに感情がサチった。さよなら姉弟。
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