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霧の中の風景のRのレビュー・感想・評価

霧の中の風景(1988年製作の映画)
4.8
13年ぶり鑑賞! やっぱすごい! 美しすぎる。しんしんと、深く、心に突き刺さる、繊細なナイフのような映画。ギリシャの幼い姉弟が、ドイツに暮らす父に一目会いたいと、ふたりで越境の電車に乗り込む。そこから始まる、残酷で厳しい道程。ワクワク楽しいアドベンチャーのシーンなんてひとつもない。その旅は、ギリシャの美しいイメージからかけ離れた、荒涼とした寒々しい風景と冷たいリアリズム。怪物にしか見えない巨大な機械、恐ろしい大人たち。幼気な少女がレイプされ、手に絡んだ血を見つめるシーンの静謐な衝撃は忘れ難い。しかし彼らは、大人たちとは真逆なやさしい青年にも出会う。彼らを慈しむ青年の温かさと、青年が背負う運命の厳しさが、胸に迫る。そして、彼に仄かな恋慕を抱く少女の小さな胸も、どうしようもない現実の食い違いによってつぶされてしまう。悲しみが限界を超えて、あふれ、こぼれだすような泣き声が、美しく幻想的な街灯のしたで、悲しく響く。そんな残酷な現実の中に、救いのように現れる美が、静かな詩情をもって描かれるシーンがいくつかあって印象に残る。人生の喜びと死の侘しさ、生まれ変わりゆく時代の中で廃れゆく時代の悲哀、現実と幻想、過去と未来、冷たさとぬくもり、様々にぶつかり合う要素が一つの画面に、流れるように映し出され、にじみ出る哀感。そして、詩情をすみずみに宿した一つひとつの画に、言語を絶する切実さと、胸に迫る力がこめられている。これはまさに孤高な詩人の魂!
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