めしいらず

ニーベルンゲン/クリームヒルトの復讐のめしいらずのレビュー・感想・評価

3.0
荘重な音楽。圧倒的な画の様式美。当時としては結構な残酷描写。物語の土台が堅牢で見所も多いのだが、まるでヒーロー漫画みたいに展開が間怠こく感じられるのが惜しい。なにせ愁嘆場が延々と続いてなかなか先に進まないのだ。作品への充足感よりも五時間の長尺を見通したことへの達成感の方が先に来た。妃ブリュンヒルトに操られる兄グンター王の指図を受けた忠臣ハーゲンによって、夫ジークフリートを殺害された妻クリームヒルトは、ハーゲンへの復讐の為だけにアッチラ王の元へと輿入れする。私怨を晴らすこと以外はまるで意に介さぬ彼女の冷血。それはアッチラとの間にもうけた我が子をハーゲンが殺すように仕向け、夫をその報復へと差し向けるほどの卑劣さだ。グンター軍もアッチラ軍も本当は戦いたくない。それなのにそれぞれが主人への忠節や忠臣への義理立て、妃に強いられた誓いなどに雁字搦めに縛られて、殺したくないのに刃を交える。なぜ殺さねばならないのか。なぜ死なねばならないのか。女の画策によって人生を狂わされた男どもの悲惨な末路。忠義と誓いによって皆死んでいった。クリームヒルトも本懐を遂げると共に死んだ。そうまでして晴らしたい恨みだったのか。誰一人として報われた者はいない。最後まで妻に利用されるだけで愛されなかったアッチラ王の哀れ。多くの大切なものを失った彼だけが取り残された。
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