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陽暉楼のsoffieのレビュー・感想・評価

陽暉楼(1983年製作の映画)
4.0
1983年公開

五社英雄監督作品
宮尾登美子原作

土佐三部作
「櫂」
「陽暉楼」
「鬼龍院花子の生涯」
2番目の作品

この映画を観るのはもう7.8回目かもしれない。
池上季実子と浅野温子が今回見た時
「若っかい!!」と思ったことに、時の流れを感じた。

昭和8年、高知県の一流料亭「陽暉楼」
100年に1人出るか出ないかの芸妓「桃若」と、鼻っ柱の強さから陽暉楼に雇って貰えずわざと身を落として遊郭のナンバー1になる「玉子」との女の友情と、それを取り巻く男達の姿が描かれている。

今回、登場人物の人間関係を中心に見ていたら、陽暉楼の女将は昔し(陽暉楼の芸妓で)緒形拳の女だったのに、緒形拳が女義太夫に惚れて子供を作り駆け落ちして捨てられていた事に気付いた。

女義太夫は足抜けした組に追いかけられて殺され、残った赤ん坊の娘を緒形拳は1度捨てた陽暉楼の女将に預けて育てさせた因縁の関係。

緒形拳は女義太夫が殺された後、赤ん坊に乳をあげてくれた女性と世帯を持ち、目の不自由な息子がいる。

20年後、女衒が仕事の緒形拳は家には帰らず、大阪のカフェで知り合った人気女給の玉子を囲って2人で生活をしている。

…ここまで書くと、五社英雄監督作品で度々女衒の役を演じている緒形拳の役の見事なクズっぷりに開いた口が塞がらない。

大阪の女になった玉子は、若いながら緒形拳を真剣に愛しているので、彼が死んでしまった女義太夫を未だに想っている事に我慢ならず、陽暉楼に断られた後、遊郭に自分から行くが、緒形拳は自分の可愛い愛人が女郎になるのを止めることなく、女将から玉子の紹介代をきっちり貰って売ってしまう。

この映画の緒形拳だけを見ていると、「陽暉楼」という映画の裏設定のストーリーを見ている事に気付く。

芸妓達の華やかさやお座敷の賑わい、色恋沙汰は表の話で、緒形拳は常に裏方で彼の仕事も生き方も、人としても男としても最低な事に気付く。

緒形拳の男らしい外見と、場数を踏んだ喋り方は出来る男の印象を与えるが、いやいやどうしてホンマにけったくそ悪い。
唯一にして最大の長所があるとすれば、彼と関係を持った女が本気で彼に惚れている「いい女」だということだ。

陽暉楼の女将も、玉子も酷い目に合っているのに彼に対して「実」がある。
やはり女衒だから女を見る目だけはあるということなのだろうか…。

緒形拳は女を見る目があるが
緒形拳に惚れる女は「男を見る目が無い」
それは死んだ女義太夫に生き写しの娘「桃若」にも言える。

桃若は12歳で陽暉楼に預けられ、16歳で水揚げされて芸妓になっている。(原作では魚屋の娘という設定なので、映画では細かいところが変わっている)
誰にも心を開くことが出来ず
「見かけによらず心の冷たい女だ」と言われていたが、彼女が生涯1度の恋をした相手が由緒正しき名家の御曹司だが1目見たら誰もが
「あんなニヤけた女ったらしの遊び人やめとけ!!」と思うような見るからにわかるような男だった事に色々考えさせられてしまう。

桃若は本当の本当はあの御曹司の事など何とも思ってないが、彼との間に子供が出来た事で「これは一生1度の恋」と決めたのかもしれない。
最後に父親に後ろから腕を回された時に、いるはずのない恋人が自分のために会いに来てくれたと泣いてすがって死んでゆく姿は「何がなんでも己の信じたいものしか信じない!」という桃若の女の執念を感じる。

五社英雄の描く男の姿は「男らしさ」と「馬鹿らしさ」の比例。
男らしくケリを付けに、行かなくてもいい場所に行って結局命を落とすパターンがよく出てくる。
そのおかげでいつも不幸になる女がいる。

玉子は土佐から1度大阪の日本最大の遊郭があった飛田の女郎になっている。
日本最大の遊郭という事は、関西1のヤクザの縄張りなので、映画の最後に緒形拳が撃ち殺す親分は西日本最大の組の親分ということになる。

そう考えると、この映画は裏社会の話としてもずい分大掛かりなスケールの大きな話だったんだなと思った。

池上季実子の妖しいまでの艶っぽさと。
浅野温子の弾けるような若さと向こうっ気の強さのぶつかり合いで、ダンスホールのトイレで掴み合いからの取っ組み合いの女同士の喧嘩は日本の映画史上歴史に残る名シーンだろう。

そしてストーリーの中で緒形拳に捨てられた後、陽暉楼の女将になるため蛇神様を祀って前の女将を呪い殺して後釜に着いたと恐れられる倍賞美津子。
声にドスが効いていて本当に怖い。
怖いのに睨んだ瞳に凄い色気があって、まさに蛇に睨まれている感覚になる。

この映画を初めて見た時
陽暉楼の女将は食事の時、白米を食べていて、遊郭の玉子はうどんを食べている、それが一流料亭の女将と遊郭の女郎の身分の差だと教えられたのはカルチャーショックだった。

華やかな陽暉楼の芸妓もやはり1番売れっ子の桃若が1番上等の帯を締めている。

そおいう細かい小道具や衣装の時代設定が、五社英雄監督の映画の魅力でもある。

五社英雄監督作品の中でも群を抜いて華やかな映画だと思う。

きっとこれからも2年に1度は観る映画。
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