ろ

スケアクロウのろのレビュー・感想・評価

スケアクロウ(1973年製作の映画)
5.0

「案山子はおかしな帽子におかしな顔をしてるだろ。あれはカラスを笑わせるためさ」

航海から帰ってきたばかりのライオネルは、赤いリボンがかかった白いプレゼントボックスを抱えていた。
出所し立てのマックスは、「おれは冷血な男だから温まらないんだ」と薄手のアロハシャツやカーディガンを目いっぱい着こんでいる。
洗車業で稼ぎたい。我が子に会いたい。
二人はそれぞれの目的のためにヒッチハイク、列車を乗り継ぎピッツバーグを目指す。

案山子はカラスを笑わせようとした。
ジョークは怒りを救うと信じていたから。
笑いの渦にのみこんでやろうと果敢に試みた。
そのかいあってか、カラスはどんどん案山子になっていく。
喧嘩を売られても、ジュークボックスから流れ出したストリップミュージックに合わせ、厚着のシャツを一枚、また一枚と脱いでいく。
殴り合いが始まるぞと身構えていた客たちはどっと笑った。拳を固くしていた男もついに吹き出した。案山子は店の隅から静かに見守っていた。

仕送りを欠かさなかったものの、5年間恋人と疎遠だったライオネル。
彼女は元気だろうか、まだこの街にいるだろうか。
こどもはどうなった、男だろうか女だろうか。
そんな彼の期待と裏腹に、かつて恋人だったアニーは「あなたがそばにいてくれなかったせいでお腹の子は死んでしまったのよ」と復讐する。
ライオネルは電話ボックスの中でしばらく立ち尽くし、ふいに意を決したように、喜びの声を上げながらマックスに抱きつく。

私は私の主観でしか、他人を見ることができない。
そんな当たり前のことが、ひどく残酷に思える。
こういう心のすれ違いは現実のもので、私がこれまで生きてきた中にも、そしてこれからも、たくさんあるんだろうなぁと切なくなった。

人生の喜びを奪われた男と、人生の相棒を失った男。
二人の最後を見届けてから、さぁメンチカツを作ろうと玉ねぎを刻んだ。
するとラジオから、ナット・キング・コールのスマイルが聴こえてきて、もうみんなして私を泣かさないでよなんて、玉ねぎが目に沁みたふりをした。
ろ