ひでやん

その男、凶暴につきのひでやんのレビュー・感想・評価

その男、凶暴につき(1989年製作の映画)
4.2
暴力的な刑事と麻薬密売人の死闘を描いた北野武の初監督作品。

冒頭、浮浪者を襲った少年を武扮する刑事が殴るのだが、そこにいるのは「その男ひょうきんにつき」のビートたけしではなく、社会の不条理を殴る北野武。現行犯で逮捕せず、安全な城である少年の部屋で殴る事で胸がスッとした。

この作品が89年に公開され、96年に「おやじ狩り」が社会で注目される流行語となったわけだから、武の憤りは日本社会の未来を見据えているようだ。

妹と一緒にいた男を階段から突き落とし、逃走する男を車で轢き、トイレではヤクの売人にビンタの連発。そんな容赦なしの暴力が不快にならないのが妙な気分。全編に渡ってバイオレンスを描き、そこに絶妙な笑いを織り混ぜるのは流石。

追跡も発砲も別世界ではなく庶民の日常の中にあり、巻き添えになる危険性は誰にでもある。そこに自分がいたなら、近距離の暴力からは目を逸らし、他者へ向かえば安全圏から傍観するだろう。

我妻に対して「暴力じゃ何も解決しない」というのは綺麗事で、暴力の抑止力は暴力だという思いが頭をかすめた。

ストーリーの流れを省き、状況説明を「点」で見せる。歩く姿をじっくりと映し、我妻の足取りを「線」で見せる。対峙する互いの表情や心理戦を長い「間」で見せ、あっけなく「死」を見せる。

怒りで恫喝し、憎悪で口数が減り、殺意で沈黙する我妻。復讐の炎を弾倉に込め、表情ひとつ変えずに正面から撃ち合う場面はしびれた。

皆殺しのメインと生き残りのサブという裏切り、ラストカットは女秘書という裏切り。その監督凶暴につき、既存のパターン化を破壊。
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