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モレク神の708のネタバレレビュー・内容・結末

モレク神(1999年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

ソクーロフ監督の権力者4部作の1作目。映画館で35mmフィルムでの上映にて観ました。観たかった作品です。

1942年の春。独裁者のヒトラーがベルヒテスガーデンの山荘で、愛人エヴァやゲッベルス夫妻らと過ごすプライヴェートなひとときを描いたもの。愛人目線でひとりの男として描かれていますが、ヒトラーはただの気弱で臆病な小太りのおじさんで、どことなく道化師みたいな感じがしました。エヴァはヒトラーを "アディ" と呼び、溢れる母性で寛容に包み込んでいます。取り立てて大きな事件が起きるわけではなく、ただひたすら淡々と時間が過ぎていきます。ですが、ラストで仕事に向かうヒトラーは強気なモードに切り替わり、死をも克服できるんじゃないかと言うものの、エヴァからそれを否定されます。

史実をなぞった伝記ではなく、ヒトラーという人物を題材にした空想を交えた寓話という感じ。どこまでが事実で、どこからがフィクションなのかがわからないところが興味深いです。最近だと、ダイアナ妃を描いた「スペンサー ダイアナの決意」のあの感じです。ヒトラー役の役者さんは、権力者4部作の2作目「牡牛座 レーニンの肖像」でレーニン役もやっています。

霧に包まれた山頂にある石造りの山荘は、まるで雲の上にある要塞のようであり神殿や城のようでもあり、集った人たちの団欒はまるで神々の戯れっぽく思えて、神話を見ているかのようです。ソクーロフって、神話ではない物語の中から神話性を抽出して、それを幻想的に描くのが本当にうまいです。退屈に感じる人もいるようですが、僕はこの淡々とした感じがかなり好きです。

ちなみにこの作品では描かれていませんが、エヴァはずっとヒトラーの愛人だったそうで、この後の1945年の終戦間際に正式な妻となり、その翌日にふたりで心中したそうです。
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