あきらっち

愛を読むひとのあきらっちのネタバレレビュー・内容・結末

愛を読むひと(2008年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

“愛を読むひと”

『タイタニック』のケイト・ウィンスレットが化粧っ気の無い地味な大人の女性ハンナを演じる。
陰のある、謎めいた、独り黙々と生きる大人の女性。
表情は固く、化粧っ気はなくとも、他を寄せ付けない凛とした佇まいが美しい。

少年時代、誰もが憧れる年上の女性。
そんな女性とのひと夏の甘くほろ苦い切ない想い出になるはずだった…

物語は前半、中盤、後半と、大きく異なる様相を呈し、主人公マイケルの目線で進んで行く。

前半は15歳の多感な少年時代。
ハンナと出会い女性を知り、突き進む盲目の愛。
主導権を握るハンナがマイケルに課したルールは、性行為の前に本を朗読し彼女に聞かせること。朗読される物語は、モノクロの世界に生きる彼女を色鮮やかな憧れの世界へと誘う。心を満たす、まるで前戯のような愛の行為。

有頂天な少年であったが、別れは突然訪れる。
短く濃厚な夏が終わりを告げる。


中盤は突然の別れを経て青年となったマイケルがハンナの秘密を知る場面。
この映画の核となる衝撃の事実が明らかにされる。
消化できないマイケル。
観ていた私も、この映画に込められた時代背景を突き付けられ、是非もなく言葉を失った。


後半はマイケルとハンナのその後を描く。
重い十字架を背負い生きる二人の人生。
マイケルの十字架は、あの日から消えることのなかった心の葛藤。
ハンナの十字架は、誰にも知られたくなかった劣等感と時代に翻弄された彼女の生き様。

ハンナの元に届けられた、時を経て読まれたあの日と同じ物語。
マイケルの心にあるのは、ハンナへの愛なのか、それとも彼女への贖罪なのか…
どちらにしても、再びモノクロの毎日を生きていたハンナにとって、希望の光となったであろう。

20年後、再開を果たす二人。
マイケルの朗読により、ハンナの視野は広がっていたに違いない。ユダヤ人に対し償う気持ちもあった。それでもやはり当時の彼女自身の行いが間違いであったとは言えない。貴方だったらどうしたか…
マイケルの冷たい言動に、あの日の愛(そして朗読)はもうそこにはないことを知ったハンナの決心が切なくてたまらない。


この映画は第二次世界大戦後のドイツが舞台となり、いわゆるナチス・ドイツ時代のホロコーストが絡んだ悲劇のストーリーだ。
だた、ホロコーストは背景に過ぎず、いつの世も、何処の国も、同じような国家の過ちや混乱に、一般市民が翻弄される構図があることを忘れてはならない。

戦争の名の元に犯した罪は、他国も軍国時代の日本も然り。
そこには、翻弄され、洗脳された一般市民が大勢いる筈だ。

生きることに精一杯で疑うことすら知らない生真面目な一般市民が取った行動に対し、それだけを抜き出して是非を問う正義など、綺麗事を並べ立てる評論家に過ぎない。問うべき相手は誰なのかしっかりと見極めなければ。

原作“朗読者”は未だ読んでいないが、そこには映画では詳しく描かれていないハンナの素性(ロマとも推測される)が描かれており、ひたすらに隠したかった想いの何故を知ることができると知った。是非、併せて読んでみたい。

本作、色々な捉え方があると思う。
歳の差の愛も、愛の形も、譲れない秘密も、ホロコーストの関与も…
正解なんてきっとない。

“泣ける映画”や“感動する映画”などと、ひと括りには片付けられない、重くて深い、愛の物語。

原作を読み、再度本作を観直してみたい。



マイケルの青年期を演じたのは、当時新人だったデビッド・クロス。オーディション時が16歳、ラブシーンは18歳になってからの撮影ということで、まさに大人の階段を登っている真っ只中のリアルな感じが演技で表現されていたように思う。

対して21歳も年上の大人の女性ハンナを演じたケイト。
役になりきった無骨なまでの振る舞いや表情、アカデミー主演女優賞に相応しい見事な演技だった。
あきらっち

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