くわまんG

エターナル・サンシャインのくわまんGのレビュー・感想・評価

エターナル・サンシャイン(2004年製作の映画)
4.5
ビターでビターでビターだけど、最後に訪れたほのかな甘みが永遠に続く、因果応報の傑作ドラマ。

みどころ:
赤い糸で繋がっているとは
いい人と都合いい人の違い
ユーモアで希釈された演出
夢見の感覚をうまく表現
J.ブライオンの神劇伴
Beckの主題歌で泣く

あらすじ:
面白味の無いアラフォー男ジョエルと落ち着きの無いアラサー女クレムは、ゴールイン間近だったが、些細な喧嘩で同棲を解消してしまった。
よりを戻そうとしたジョエルは、別日にクレムの職場を訪れたが、なんと彼女は彼のことを全く覚えていないと言い出した…。

嫌なことを無かったことにできる“記憶消去”は、ゲームでいう“セーブ地点からのやり直し”。対決や謝罪のような前進に伴う痛みが免除され、罪悪感も帳消しなのだからいかにも便利。しかしこういう便利は容赦されないのが世の常。

俗に言う「失恋の薬は新しい恋愛」や「嫌なこと忘れて次行こう」はまさに記憶消去。良い処方箋ではあるんだけど、消去する記憶に対して罪悪感が残っている場合、それは向き合うべき過去を避けて通る行為にあたる。

要するにそれは、自分に都合よく解釈したり、自分の思い通りに事を進めたりするために、臭い物に蓋をしているに過ぎない。蓋をし続けるとどうなるかというと、当然いつか閉まらなくなり、最終的に汚物大爆発が起こる。

「俺は人助けをしているんだ」と自他に言い聞かせ、己の問題から目を背け続けた博士が、汚物まみれになるくだりがその最たる悪例。メアリーやスタンも、相応の痛いしっぺ返しを食うことに。では、なぜジョエルとクレムは難を逃れ得たのか。

それは、消した記憶が本当は消したくない思い出だったから。思い出したくない記憶と同様に、忘れたくない思い出も削除などできない。マイナスを帳消しにしようとしても差し押さえが来るように、プラスを帳消しにしようとしても預金残高は膨らんでいる。

ただし、差し押さえは誰でも気づくけれど、預金の増加は(こんなラッキー起こるはずがないという心理から)スルーしがち。これが、幸せになるチャンスをふいにしかねないもう一つの落とし穴。

一歩踏み出せない男と保証が欲しい女。男性性と女性性の弱みそのものと言っていい二人は、これまでずっと幸せになるチャンスをふいにしてきた。原因は、自分が許してほしいことを、他人に許さなかったこと。「あいつがあんなことをしたから」みたいな理由で他人を断罪し続けた結果、同様に他人からも裁かれ続けてきた。

そうやって(自業自得とはいえ)何度も何度も傷ついてきた二人だったが、今回こそは巡ってきた機会を逃さなかった。というわけは、ついに学んだからだろう。何かを本当に忘れてしまうとは、過去(の過ち)を認め、謝罪し、許し許されて過去が浄化される(=そのことを思い出しても嫌な気分にならない)ことであると。幸せは無垢な心にのみ宿り、永遠の太陽の光(や“赤い糸”や“抵抗できない力”的なもの)に導かれて運命を動かすのだと。

Change your heart, look around you.
気持ちを変えて、振り返ってごらん。
Change your heart, it will astound you.
気持ちが違えば、驚くほど世界が変わるから。
And I need your lovin' like the sunshine.
そして僕は求めるのさ、太陽のようなあなたの愛を。
And everybody's gotta learn sometime.
みんなそうやって、いつかわかる日が来るんだ。
Everybody's gotta learn sometime.
みんな、いつかわかるんだよ。
Everybody's gotta learn sometime.
みんないつか、ね。

号泣した。