けんたろう

酔いどれ天使のけんたろうのネタバレレビュー・内容・結末

酔いどれ天使(1948年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

三船敏郎、さては美青年だな?


嗚呼、中々素直に成れねえ男たちの、意地と意地の張り合ひよ。短気でぶつきら棒で口の悪りい江戸つ子たちの、其の悪態よ。然うして、酔ひどれ天使が見する、不器用なる優しさよ。おいら、ホントに大好きである。
又た、酔つ払ひとヤクザもんといふ、もう何うしやうもなきクズ共が兎角も強がる姿なんかは可笑しくてしやうがない。人間臭さを可笑しみを以て表現したるのは、一寸黒澤作品のなかで新鮮にも感じたが──何んにせよ、最高である。


薄汚れた泥水に映ゆる、究極惨めな負け犬ども。
弱りきつた三船に、然し最後の力を振り絞りて恩義と仁義に力強く生き抜く三船に、此れ亦た大へん惹かる。果たして男よ! 愚かたれ!
又た、酒には溺れ、患者には罵詈雑言を浴びせ、風貌は汚らしく、品なんてものは此れぽちも無い、が然し地の底に在るからこその優しさを持つ志村喬にも、途んでもなく惹かる。無邪気なる道徳家よ! 己れのエゴを自覚し、堕落し、然うして真に優しくたれ!


成るほど、美代(中北千枝子)の行く末が野放しにはせられてをる。其の忘却の結末に関しては、正直なところ消化不良である。
けれども、三船、志村、然うして黒澤が九十分余を掛けて紡ぎし此の魅力が失することは全く無し。即ち、フイルム(観たのはDVDでだけれども)に映ゆる静謐と躍動。一見、何んでもなさゝうなカツトが後々に繋がりてくる構成。顔面、建物、泥、池、音。嗚呼、汚らしさが燦然と輝いてをる。
蓋し、秀逸。面白かつた。