てつこてつ

マイ・ブルーベリー・ナイツのてつこてつのレビュー・感想・評価

4.0
ウォン・カーウァイ監督の作品のファンの方なら、本作を観ても、舞台を香港からアメリカに移そうが、役者陣も欧米のキャストに変わろうが彼ならではの持ち味が十分に出ているのがしっかり伝わる筈。

ちょっと「ラ・ラ・ランド」っぽいクラシカルでおとぎ話っぽい甘々なテーマ自体は、今では少し古く感じる方も多いだろうが、自分は他のウォン・カーウァイ作品同様に凄く好き。

失恋した心の傷を癒やす為にニューヨークからメンフィス、どこか田舎町の寂れたカジノ、そしてラスベガスと移動を続けるヒロインと、その道中ですれ違う人々との人間関係の描き方の妙味。

ヒロイン役には本作が映画初出演で大抜擢の歌姫ノラ・ジョーンズ。“ナイーブ”が求められるキャラだが、不思議と役どころにピッタリはまっている。「恋する惑星」のフェイ・ウォンのキャスティングもそうだが、ウォン・カーウァイ監督は演技は未経験でも、シンガーという一流のアーティストの起用法が上手い。本作でも中盤まではノラ・ジョーンズの彫りが深く美しい横顔(プロフィール)のアップ画像を多用しながら、クライマックスではド正面からのアップで表情を撮る手法がヒロインの心情の変化の描写にも合ってとても効果的。

ニューヨークのカフェのオーナー役のジュード・ロウは、さながら「恋する惑星」「天使の涙」での金城武を彷彿させるキャラクターで、正直、彼がこれまで出演した作品群でも一番好きかも。

哀愁漂う保安官を演じたデヴィッド・ストラザーンの演技も渋い。

圧巻なのは女優陣。レイチェル・ワイズ、ナタリー・ポートマンは、この頃から圧倒的に演技力の高さを見せつけてくれる。

ニューヨークとメンフィスでは、殆どのシーンが夜、そしてカフェやバーという室内撮影で、ネオンや照明を駆使した陰影ある美しい映像、ストップモーション(スローモーション?)を多用した撮影手法などは、まさにウォン・カーウァイ。撮影監督もてっきりクリストファー・ドイルかと思いきや、全く別の人物だったのが驚きだが、やはり作品群に共通する映像美への拘りは監督の信念に基づくものなのだと納得。

ヒロインがラスベガスに向かう過程では、前半とは一転して、アメリカ西部ならではの果てしなく広い青空や荒野という大自然を美しく見せる大胆な演出もこれまた自分の好み。

にしてもジュード・ロウが食べる巨大なケーキの不味そうな事といったら・・これまたこの当時のアメリカ有る有るかな。
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