ひでやん

欲望のあいまいな対象のひでやんのレビュー・感想・評価

欲望のあいまいな対象(1977年製作の映画)
4.0
若い娘に翻弄される初老のブルジョワ紳士を描いたブニュエルの遺作。

軽快なリズムを奏でるオープニングの後、突然の大爆発。のっけから視聴者をビビらすブニュエルは目的が曖昧なテロリスト。常識も美徳もぶっ飛ばして変態ワールドへと引きずり込む。

発車間際の電車から若い女性に水をぶっかけた初老の紳士は、列車の客室で他の乗客に事の経緯を語り出す。自分も乗客となり、年甲斐もなく恋しちゃったオッサンの恋話に付き合う。

語り手の紳士はマチュー、女性の名はコンチータ。愛しているけどセックスはしたくないという彼女に「待て」とおあずけを食らう忠犬はヤキモキ。

ネズミ捕りにかかるネズミは、どこへ逃げても捕まるコンチータ、そして魅惑の罠に嵌まるマチューのどちらにも重なる。グラスに落ちたハエは愛欲の海に溺れるマチューのようだが、案外ネズミもハエも何の意味も無い気まぐれ描写にも思える。

テロによる車の衝突、銃撃、恐喝、ニュースなどが日常に溢れるが、愛に狂ったマチューはどこ吹く風。クレバーな紳士とクレイジーな変態の二面性が右往左往して、結局バカ。焦らされ逃げられ振り回されるが、欲望は決して満たされない。

コンチータの「顔」に違和感を覚えたが、場面転換で別人に入れ替わっている事に気付くのに少し時間がかかった。警戒する純情な乙女と、誘惑する狡猾な悪女を二人一役で演じているように見えたが、それはどちらにも感じる曖昧な二面性だった。
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