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ラヂオの時間の会社員のレビュー・感想・評価

ラヂオの時間(1997年製作の映画)
5.0
ラジオドラマの舞台裏を描いたコメディ作品。


物語はほとんど全てラジオのブースのみで繰り広げられる。平凡な主婦が書いた脚本を元に、生放送に備えるリハーサルから物語は始まる。
一つの作品を作り上げるために、様々な肩書きを持つ大人達が登場する。プロデューサー、ディレクター、編成部長、効果マン、、、。大物俳優のちょっとしたワガママがきっかけとなり、それぞれの立場から意見が噴出し、辻褄合わせのために脚本にどんどんと手が加えられる。
それだけに留まらず生放送途中にも様々なトラブルが生じ、慌ただしくも作品を放送し続ける現場の様子が、緊張感とユーモアをもって描かれる。


大人げない意地の張り合いや、風見鶏のように目上の人間の意見に従うこと、また理不尽な要求に振り回されることは、我々の社会でもそう少なくない。しかしそれは、それぞれがそれぞれの立場で、果たすべき役割を全うしているに過ぎないこともある。
脚本を書いた主婦は途中、あまりに改編される脚本に対して我慢の限界に達し、ラジオブースに立てこもる。しかしそこでプロデューサーは、皆それぞれ逃げ出したくなるような責任を背負って一つ一つの仕事に向き合っていることを諭す。彼は以前、人間の想像力によって可能性が無限に広がるラジオドラマという世界の魅力をその主婦に語った。
働く人間だけでなく、その向こうの観客を満足させるという高尚な目標があるとはいえ、現実は綺麗事だけでは成り立たない。それでもなお頭のどこかに理想を掲げ、今日も何のためにか分からないような重い責任と向き合っていくしかない。


まさに笑いあり涙あり、三谷作品のエッセンスが詰まったお仕事映画である。
ラストシーン、ドラマに感動して号泣する視聴者の姿は滑稽でありながら、しかし画面のこちら側ではそれと同じように涙を流す自分がいた。
仕事の在り方や人と人との関係性を問い直す必要性に迫られている今だからこそ、響くものがあった。
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