やた

ノッティングヒルの恋人のやたのレビュー・感想・評価

ノッティングヒルの恋人(1999年製作の映画)
4.2
「女性の方が社会的地位が高い男女恋愛もの」を観る第三作。

▼メインキャラクター
女性:誰もが知っている超人気女優。
男性:経営難の旅行専門書店店主。

華々しくたくさんの人に囲まれるアナと、シャツの裾がちょろっと出ただらしない姿で、人で溢れる小さな通りを歩くウィリアムの対比で始まる。
しょっぱなで妻が出ていったことを説明し、彼がシングルであることと妻を寝取られる不憫さが伝わるのが上手い。

出会いのシーンはややスローモーションになるのと、本棚に隠れて彼女の顔がはっきり見えない「ボディガード」でも使われた焦らす演出で盛り上げている。

アナが手に取った本について「買う気がなければ無駄」と言って、頼まれてもいないのに別の本を薦めるところで、商売はうまくいってないけれどウィリアムの仕事熱心さが伝わる。
何事も起こらずアナが書店から出て行くところ、視聴者は全員この二人が恋に落ちることを知ってるので「本当に今出て行っちゃうの?」「この先どうやってまた再会するの?」とわくわくさせる仕掛けが成立している。

アナと出会えたことで緊張してるのもあるのか、あんずと蜂蜜のくだりとか、ウィリアムが余計なことをしゃべってしまうのが面白い。でもデリカシーのないことは絶対口にしないバランス感が絶妙。

しかしどういうきっかけで恋が始まるんやろ〜、とわくわくしてたらいきなりキスして「ファッ!?」て声出てしまった。よっぽど気に入ったのか彼女が奔放なのか、この時点ではわからない。

電話がつながった時、どんな挨拶するか練習してるのも小さい花束(赤とかピンクじゃなく黄色を選ぶところもポイント高い)を持って会いに行くのもウィリアムかわいい〜。
ホテルの部屋に呼び出されちゃってドキドキしてたら、記者が集められてて明らか場違いなシーンで咄嗟に雑誌「馬と猟犬」所属名乗ってるのめちゃくちゃ笑ってしまった。

「キスしたこと謝りたかったの」「なぜあんなことをしたのか…」少女漫画ではよく片想いの男の子に突然抱きしめられたりキスされたりして(どうして彼はあんなことしたの!?ドキドキ…)ってなる展開があるけど、逆なのは新鮮。

なぜか観てない映画について色んな役者にインタビューしなきゃいけなくなった不憫さに笑う。でもそれで彼がキレたり人に八つ当たりする性格じゃないことが伝わってくる。ウィリアムの魅力を描くのが上手いなぁ。
あの有名人が一般家庭のホームパーティに!?という身分差ものではお決まりの展開。若干エキセントリックな妹を大事にしていて友達の前でよく笑う彼にアナが惹かれているのがわかって、ここもウィリアムの魅力をアナと視聴者にしっかり伝えるシーンとして活きてる。

庶民の悩みに大女優が衝撃を受ける展開かと思いきや、自分の苦しみやいずれスターではいられなくなる悩みを語るアナ。皆それぞれに悩みを抱えていること、アナが自己開示するタイプだということがわかり、ウィリアムの友人たちだけでなく視聴者との心理的距離が縮まる。

「明日帰国するのかと」「やめるわ」のやり取りでアナがウィリアムのことをかなり気に入っていることと、「ローマの休日」と違ってアナには自分の行動を選択する自由と権利があることがわかる。

「ウプシーデイジー」、知らなかったけど独特な言い回しがアナにウケるの良いなぁ。相手のちょっとした言動がささるかささらないかって結構重要だよな。

公園でベンチに座るアナと、そこから離れようとするウィリアムのシーンでカメラが上に移動したのはどういう意図なんだろう?
「一緒に座って」と言われて少し距離を取るウィリアム、二回キスはしたけどまだ近づきがたい気持ちがあるのが、彼の真面目さと慎重さを表現している。

アナの下品な妄想で笑う男たちにウィリアムが怒るシーンで、アナが思い立ったように「私も言ってやりたかったの」と男たちをからかうところが予想通りではありつつもすごく良かった。
一緒にいることで自分らしからぬ行動を取ってしまうこと、なぜこんなことをしてしまうのかわからないけどそれが悪くないっていう関係は素敵だと思う。

「部屋に来る?」
「行くべきじゃない理由はたくさんある」
「部屋に来たい?」
のやり取りがオシャレ〜。ウィリアムがハッキリ行きたい!抱きたい!と意思表示しないのも、この時点での二人の関係性とウィリアムの性格がよく出てる。

アメリカから突然来たアナの恋人、人気俳優らしいけどおっさんでムチっとしててガサツで無神経そうで、なんかイヤ…って感じがすごくリアルだった。

自分から部屋に誘ったくせに結果的に追い出す羽目になり、「なんて言ったらいいのか…」と戸惑うアナに「こういう時は"さよなら"だ」と微笑んで答えるウィリアム、身を引くことに慣れてそうでせつない。

ヌード写真流出のショックで突然訪ねてきたアナを優しく受け入れて、気分を変えさせてあげようとするウィリアムいいやつすぎる…ホテルでの出来事を責めたりしないところ、こういうところが元妻につけ込まれたのかなぁと想像させる。
お互い意識しながらも、別々のソファに座って距離を取っているところがじれったくて良い!

階段を下りてくる足音が聞こえてアナかと期待したら上裸(もしかして全裸かもしれない)のスパイクだったのデカい声出して笑ってしまった。スパイク、いい味出してるな〜!

初セックスの翌朝、アナがウィリアムに足を向けて寝そべって話してるのが良い。アナがとことん自然体でいられる関係なのがわかる。

パンイチのスパイクが写真撮られるところで手叩いて笑ってしまったけど、自分が勝手に、しかもひどいことしたウィリアムの家に来ておいてスパイクが情報売ったとか、ウィリアムは有名になれて良かったねとかアナ自分勝手すぎんか…。あまりにもウィリアムのことを思いやれてない。
ウィリアムにはもっといい人がいるよーと思ってしまった。でも恋ってそういうことじゃないんだよな。

アナがロンドンにいることを知って、自分から撮影場所に会いに行くのがけっこう意外だった。追う側が女性の場合は、こういう行動なかなかしないような気がする。
アナが再び書店に訪ねてきた時に、ホイホイ喜んでついていくんじゃなくて「過去の人だと言ったよね?」と問いただすウィリアムが良い。もう充分傷ついたから落ち着きたいんだよな〜。その理由を正直に話すのも素敵。

「誰であっても付き合いたいって言われるのは嬉しいよな」と言う友人の素直な感想で、考えすぎてた頭がスッキリする展開が良い!
中盤でウィリアムが言ってた、互いに愛し合える人に出会えるのは奇跡だという言葉がここで活きる。

気の利くホテルマンがアナの行方をこっそり教えてくれてウィンク→ウィリアムがたまらず彼にキス、こういう流れが好きすぎる!

「ローマの休日」オマージュの記者会見シーン。あれよりオシャレさは少ないけど、最後記者たちが噂のイギリス人男性その人だと気づいて写真撮りまくる流れはコメディっぽくて良い。

▼クライマックス
アナからの明確な愛の告白を断ったウィリアムを、友人たちが協力して背中を押してアナの記者会見に送り出す。ウィリアムは記者会見に潜入し、改めて自分の想いをアナに伝え、アナはプロポーズ同然の返事をする。

緊張しながらレッドカーペットをエスコートするウィリアムかわええ〜!
あの時ベンチで距離を取って座った高嶺の花が、ベンチに座る自分の膝に頭を乗せて寝そべっているラストシーンは美しかった。

▼エンディング
記者会見でほぼ公開プロポーズをして結婚。アナはウィリアムの友人たちとも良好な関係を築き、女優業も続けてますますの活躍、子どもに恵まれ幸せに過ごしている。
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