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ペパーミント・キャンディーのmaverickのレビュー・感想・評価

4.7
『オアシス』、『バーニング』のイ・チャンドン監督作。99年製作で、韓国のアカデミー賞である大鐘賞にて5部門を受賞した。主人公の人生を巻き戻してゆく形で展開する物語。仕事も家庭も失い、人生に絶望した男が河原で狂ったように発狂する場面から始まる。キャンプ場の河原に集っている人達はかつての仲間。20年ぶりに会った彼の変わり様にみんな驚く。彼にいったい何があったのか。鉄橋の上で向ってくる列車に立ちふさがり、「戻りたい、帰りたい」と叫ぶ主人公。そこから時間が巻き戻る。彼の人生においてターニングポイントとなった出来事が7つのエピソードとして章ごとに描かれている。章ごとに遡ってゆくことで主人公がどう形成されていったかが一つ一つはっきりしてゆく。映画において主人公の過去を回想する手法はよく使われるが、逆の順番でというのが面白い。突然キレ出したりと人間的にどうかと思うような主人公なのだが、なぜそうなってしまったのかが段々と分かってゆく。この男にもこうした人生があったのだなと。自分の人生と照らし合わせて見てしまう。イ・チャンドン監督は人生を描くのが何と上手い人なんだろう。人生は時に辛く苦しい。本作を観ていると切なくて泣けてしまう。だが同時に人生は美しい。本作の主人公にも人生において美しい思い出がいくつもある。人生に絶望してしまったが、彼にはいつでもやり直すことが出来た。人生は悲観するようなものではなく美しいものなんだよと。観る人にそれに気づいてほしいという監督のメッセージが本作には込められているように自分は思う。監督の初期作品なわけだが、すでに本作でその才能は遺憾なく発揮されている。粗削りな部分はあるが、最後まで観ると作品の重みというのをずしりと感じる。鑑賞後に余韻が残り、心にしかと刻まれるような作品だ。『ニューシネマ・パラダイス』のように人生を感じさせる切なく美しい映画であり、昭和の日本映画のような古き良きそんな雰囲気も感じさせる。名作好きの映画通にはおススメしたい作品。主人公を演じたソル・ギョングがこれまた凄い。韓国が世界に誇るカメレオン俳優だが、そのカメレオン俳優っぷりは本作でも健在。主人公の20代から40代までを見事に演じている。今であればCGや特殊メイクによる手助けも受けることが出来るが、この時代に役者魂だけでここまで変化をつけられるのが本当に凄い。『6才のボクが、大人になるまで。』のように、何十年もかけて撮影したのでは?と思うようなリアルな演じ分けがされている。外見のみならず、年月による主人公の心の移り変わりや、その時その時の細かな心情や深みというものをはっきりと感じさせる。主人公の初恋の相手役であるヒロインをムン・ソリが演じているのも注目。ソル・ギョングとは『オアシス』、『ザ・スパイ シークレット・ライズ』でも共演しているが、お互いに作品ごとの演じ分けが凄すぎて驚く。彼女は本作で正統派ヒロインをみずみずしく演じている。決して美人ではない所がこの役の良さではあるのだが、はっと目を引く可憐さ。主人公の心にずっと残るような女性であったことが納得がゆく。この2年後に『オアシス』のあの役を演じているのだから驚きだ。こういう人らを本当の役者と言うんだな。韓国映画は監督の才能も高いが、それを表現出来る役者の才能も同じく高い。なぜ質の高い映画をどんどん生み出しているかは一目瞭然。熱意もあるしね。本作には韓国の激動の時代が主人公の人生と共に映し出される。学生運動や光州事件などが絡めてあるのも見所。本当に良い映画を観たなという印象。こういう心に残る映画を観ると本当に幸せだ。
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