こたつむり

ハネムーン・キラーズのこたつむりのレビュー・感想・評価

ハネムーン・キラーズ(1970年製作の映画)
3.3
♪ あなたをこの手で殺したい
  あなたをこの手で犯したい
  気弱な僕は いつでもそばにいる

実話をベースに綴られたサスペンス。
淡々と進行するドキュメンタリー風味の筆致なのに、それでも足元に揺蕩う不穏な空気。独特のテンポは唯一無二。地味ながらも強烈な作品です。

思うに観客との距離感が絶妙なんですよ。
これ以上離れたら飽きるし、これ以上近づいたら陳腐になる…その中間で揺れているので、ついつい手を伸ばしたくなるのです。

また、主人公の二人の存在感も独特。
どう考えても魅力的だと思えない《マーサ》ですが、そんな彼女に従う《レイ》の表情には“無言の説得力”があるのです。確かにこういう雰囲気のカップルは何処にでも居そうな気がしますね。

それと犯罪に手を染めているのに。
やたらと杜撰で、嫉妬で目の前を赤くし、自分本位で突き進む姿からは圧倒的なリアリティを感じました。やはり、人間を真正面から捉えたら矛盾だらけになるのでしょう。

そして、どんな犯罪者でも勝てないのが孤独。
それをまざまざと見せつけてくるのが…傷口を抉るような感じでイヤです。勿論、実録風の時点で気分が良くならないのは自明の理なんですけどね。

あと、彼らに騙される人たちが“牧歌的”なのもイヤな感じ。そんな人たちを毀損していく…ということは人を傷つけるだけではなく、社会を傷つけていることと同義だと思いました。

まあ、そんなわけで。
中立的な立場で捉えた犯罪の物語。
ありきたりの感想を綴れないほどにマニアックな切り口なので、人を選ぶ作品だと思います。ただ、この歪み具合がクセになるとハマること間違いなし…それが沼の入り口ですけどね。

最後に余談として。
冒頭の一文は奥田民生さんの『ハネムーン』から引用しましたが、この曲は本作からインスピレーションを得たのではないか、と思うほどのシンクロ度。興味がありましたら、鑑賞後に聴いてみてください。

ああ ああ ああ ああ
こたつむり

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