劇中に引退生活を送る作家が出て
くる。演じるのはジェームズ・アール・
ジョーンズ。
この特徴的な声、聞き覚えない？
あのダースベーターの声をあてた
俳優さんだ。そのダース…いや、
ジェームズ演じる作家の名は、
テレンス・マンと言う。
原作ではサリンジャーになっている。
あの（ライ麦畑でつかまえて）の
サリンジャーなんだ。
1950年あたりに出たライ麦畑〜で
大人や社会の欺瞞やインチキ、ズルを
口語的に赤裸々に独白のスタイルで
綴った本は、大人たちの反感を買い、
図書館から（追放）されてしまう。
戦時中でもないのに禁書扱いされて
しまう。逆に熱狂的な信者も生み出し、
サリンジャーは社会と繋がりを持つこと
を拒絶してしまう。
劇中には、もうひとり
（追放）される男が出てくる。
シューレス・ジョー・ジャクソン。
今から100年前、ワールドシリーズで
ホワイトソックスの主力8選手が、
賄賂を受け取って試合に負けたとされ
球界から（永久追放）された。
ブラックソックス事件。
テレビやインターネットのニュースを
聞いていて思うのは、世界から
寛容さは消え、ミスをした人間には
激しい言葉を浴びせ、
セカンドチャンスはないのだなぁと。
そして僕は、8歳の息子に、
君が生まれてきた世界は、
そんな世界なんだと
伝えなければならないってこと。
この作品も、映画化まで大変だった。
野球をモチーフにした、農家が
主人公のファンタジー映画など、
誰が見るというのかと、当たる
はずもないと思われていた。
たしかアメリカでは、たった4館のみの
劇場公開でスタートしたと思う。
危うく、あっさり（追放）される
ところだった。
これは野球映画なのだろうか？
僕は、許しの物語だと思う。
ケヴィン・コスナー主演。
タイタニックのジェームス・ホーナー
の音楽が素晴らしい。
これも（映画館案件）だと思うよ。
アイオワの暗闇に浮かぶ野球場の姿を
暗闇の映画館で観た時は鳥肌もの
だった。暗闇の映画館で、彼らが
現れた瞬間はやはり鳥肌ものだった。
広がるとうもろこし畑。
孤独なとうもろこし畑。
沈黙のとうもろこし畑。
ただ美しく、そして
主人公のクレイジーさや
彼が置かれた立場を
際立たせて残酷に見えた。
たった244年の歴史しかない
アメリカで、長い歴史を持つことは
貴重なことだった。移民だらけで
構成され、バラバラのルーツや信仰を
持つ国民には、野球は初めて持てた
共通の言語であり、神様だった。
アメリカ人にはスポーツではなく、
球場も、行く場所ではなく、
戻る場所、帰る場所になった。
（めぐり逢えたら）で主人公のサムが
幸せを思い描く時、ボールパークへ
向かう妻と子の姿があった。
松井秀喜は今もきっとヤンキー
スタジアムに顔を出せば、
拍手喝采で迎えられるだろう。
年齢不詳のおじいちゃんが
スポーツバーで、松井の活躍を
昨日のように語るだろう。
主人公は謎の声を聞き、
アイオワのとうもろこし畑に
野球場をつくる。
近所中から笑い者にされ、
義理の兄から、頭がどうかしている、
と罵られる。その姿は、
映画化に奔走した今作の監督の姿に
似ているかもしれない。
アメリカン・ドリームという言葉を
久しく聞かなくなった、
さっきも言った通り、人生に
セカンドチャンスはないらしい。
劇中に出てくるアイオワの
とうもろこし畑の野球場は
実際ある。映画撮影時から
ボランティアの人たちによって
ずっと残されてきた。
ここにバッドニュースと
グッドニュースがある。
2年前、この野球場は何者かによって
無残に荒らされてしまった。
無数に残る車のタイヤ跡、
ベンチ、スプリンクラーなどが
破壊された。無残な姿だった。
昨年の８月。メジャーリーグ機構から
ある発表がされた。
2020年の８月に、この作品に出てくる
（フィールド・オブ・ドリームス）の
（復活した）野球場の横に、
新たに野球場をつくり、
メジャーリーグの公式戦を3試合
行うと言うのだ。遊びでなく公式戦！
球場に行くには（フィールド・オブ・
ドリームス）の球場を抜けてゆくらしい。
そう、（抜けて）ゆくらしい。あぁ、
もう僕は、このニュースだけで泣きそう
なのだが、対戦カードが、ニューヨーク・
ヤンキース対シカゴ・ホワイトソックス戦
が予定されている。
ホワイトソックスが帰ってくる。
あぁ、もうやっぱり泣きそうになる。
フィールド・オブ・ドリームス。
誰かが『ここはアイオワかい？』って
聞いたら、僕は今度はこう答えるんだ。
『いや、天国だ。』って。
そんな景色を、僕は息子に見せて
やりたい。そして言うんだ。
人は、ごめんなさいって思ったら、
ちゃんと謝れるんだ。そして、
言われた人も、もう、いいよ。って
許してあげる、そんな世界なんだ。
