茶一郎

カイロの紫のバラの茶一郎のレビュー・感想・評価

カイロの紫のバラ(1985年製作の映画)
4.2
 スクリーンからキャラクターが飛び出す、昨今の3Dや4DXなど目じゃない、映画の魔法が生み出すラブロマンスとコメディを描く『カイロの紫のバラ』。
 大恐慌時代における低賃金労働、夫からの暴言・暴力、悲痛な現実を生きる主人公セシリアの唯一の生きる希望は「映画」という空想の世界でした。その現実と空想の境を取っ払う魔法をウディ・アレン監督はセシリアにかけます。何と、映画の中の登場人物が自分に向かって話しかけ!スクリーンから飛び出してきた!
 本作『カイロの紫のバラ』は、別世界に巻き込まれるファンタジーとして、近作でウディ・アレン監督史上最高のヒットだった『ミッドナイト・イン・パリ』的ウディ・アレンによるノスタルジックなファンタジーの系譜の原点にして頂点である作品に思います。

 そして忘れてはいけないウディ・アレン監督は、この『カイロの紫のバラ』の次作『ハンナとその姉妹』において、監督自身が演じる自殺願望の男がコメディ映画によって救われるシーン、本作同様、空想が現実の世界に生きる人を救う瞬間を描きました。空想=映画自体が映画を肯定する力強さ、ウディ・アレン監督が80歳を越えてまだ、その映画を作り続ける理由が少し分かったような気がします。
茶一郎

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