噛む力がまるでない

裸の銃を持つ男の噛む力がまるでないのレビュー・感想・評価

裸の銃を持つ男(1988年製作の映画)
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 1988年に公開されたレスリー・ニールセン主演のコメディである。

 昔はよくテレビで放送されていてのんきに笑っていたものだが、ひさびさに見てもまあひどいもので、呆れながらもまた爆笑してしまった。倫理的にどうかと思うようなところはあるが、それでもベタを徹底的に作ったものを見ると、不謹慎でも笑ってしまうという人間の不合理さがあぶり出されるようなパワフルな作品だなと思った。おかしな人しか出てこなくて、おかしなギミックも満載で、それを往年のスター俳優や実力派が真面目にやるのでコメディのお手本として感心した。クライマックスのとってつけたような「汝の隣人を愛せよ」的なメッセージも軽薄だが、作り手はいたって本気だと思う。

 吹き替えに関してはテレビ朝日版に馴染みがあるので、フランク・ドレビン(レスリー・ニールセン)を羽佐間道夫ではなく中村正があてるのには最初は違和感があったが、中村正もさすがの安定感なのですぐ耳馴染んでしまった。相棒のエド・ホッケン(ジョージ・ケネディ)は富田耕生なので2人の掛け合いを見ているだけでも楽しいし、あと吹き替え台本もとても良い。フランクが球場で国家を歌い終わったあとの「ふるえる低音、かすれる高音、乱れる中音。どういうヤツだったんでしょう」というアナウンサーのセリフが最高だ(原語をまったく無視しているし、字幕でもこうは表現されていない)。そんな中でヴィンセント・ラドウィッグ(リカルド・モンタルバン)の小林勝彦だけが正統派の悪役をひたすら演じていて、バランスのとれたアンサンブルになっている。