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ドライヴのNMのレビュー・感想・評価

ドライヴ(2011年製作の映画)
3.3
同名の小説原作。数々の受賞及びノミネート。

ジャケット写真から分かる通り、ドライヴといっても楽しいドライヴではなく、その逆。
因みに「ドライブ」で検索するとなかなか見つからなかったので注意。「ヴ」。

冒頭登場した彼・キッド(当然仮名だろう)は、どうやら「プロ」のドライバーらしい。受けている仕事は犯罪の片棒。窃盗する依頼者たちを逃がす役目。
彼は車の調達からその運転テクニックはもちろん、その街の道路事情に精通し、警察が一斉に手を回しても軽々とくぐりぬけていく。

普段は自動車修理工場で働いている。
さらに時々スタントマンもする。腕が良いので大がかりな映画にも出演しているらしい。

独身でアパートに一人暮らし。工場の給料は安いが、その裏稼業のお陰で目立たない程度に人並みの生活をしている。

ある日同じフロアに住むかわいらしい人妻アイリーンと知り合いになる。18歳の時産んだという幼い息子ベニシオもかわいい。しかし夫は服役中で借金まみれのチンピラ風情。
その時から彼の運命は変化を始める。
彼は自らと、この母子を守ることができるのか……。


アクション映画でもあるが、それよりもキッドの内面を描いたヒューマンドラマといった感じ。派手なアクションシーン自体がこの作品のメインとは私は思わない。

BGMがとても古めかしい感じの曲で驚いた。70年代後半~80年代を思わせるディスコティックなシンセサイザーのエレクトロニカ。不自然なほど古い。
また全体的に色褪せたようなペールトーンで、彼らの住むアパートの部屋の内装などは特に淡い色味が印象的。これも、懐かしいような雰囲気を感じた。
ただし、修理工場の店主が「80年代に映画を作ってた」と発言しているので、時代設定はほぼ現代のはずだ。

監督はどういう意図でこれらの演出をしたのか調べてみたが、ちょっと哲学的過ぎて結局私には理解できなかった。とにかく音楽は映画にとって重要なものであり、フェチ的なほど考え抜かれたものとのことで、結果各賞の音楽賞等もいくつか受賞している。

最も重要な曲は「A Real Hero」で、本来の意味はヒーロー中のヒーローという感じだが、ここでは、昼は普通の人だけど実は夜はヒーローというキッドのことを表してもいるらしい。一見逆だが、意味を考えれば納得。普通のヒーローではなく、隠れたヒーロー。
監督の意図とは異なるかもしれないが、私にはこの陽気すぎるきらめきサウンドは、無口なキッドに全く似つかわしくないので、彼の運命の皮肉さ、滑稽さを強調させるように感じた。

エレベータのシーンは秀逸。命さえ惜しまない限りない愛情と、おそらくこれが最後だろうということを悟らせる。
キッドは危険を冒し全てアイリーンのために行動するが、アイリーンはそれをなかなか理解できない。
すれ違う愛情が切ない。キッドは理解されないと分かっていても、アイリーンのために罪を犯すしかない。ずっと孤独だったであろう人生で、これほど大切に思ったものが、楽しい時間があっただろうか。例えこの先一緒になれなくても。

アイリーンの夫が釈放なのか保釈なのかされた際、ホームパーティを開きみんなで祝っているのが私には見慣れない光景だった。こういうことは普通なのだろうか。日本ならどんな軽微な罪だろうとひた隠しにするだろう。

ゴズリングは、今までニコラス・ケイジが担ってきた役柄を今後彼流に刷新してくれそう。

アイリーン役・マリガンがとてもピュアで魅力的。キッドが惹かれるのも無理はない。すっきりと短く切った髪にパッチン留め、少し丸い鼻先、ぱっちりした瞳でまるで少女のよう。裕福ではないはずだがそれでも品のあるというキャラクターを完璧に演じている。実際若いが、これからもまだまだ若い役のオファーが続きそう。

赤毛と濃いアイメイクが印象的なブランチ役・ヘンドリックスも、最初こそ怖そうに見えたが、後は怯え切っていて、はかなげでか弱いイメージ。これにより彼女もまた被害者なのだという印象を強めている。脇役ではあるが重要で、また演技の幅を垣間見せている。貴族や敏腕FBIの役等も似合いそう。

前半で悪玉ニーノが、彼のピザ店でフォーチュンクッキーを持ってこいと店員にいらつくシーンが少し可笑しかった。しかも結局持ってきてもらえない。この時点で運命は決まっていたかのよう。

メモ
サソリとカエルの話……キッドが電話中使っている例え。寓話。サソリは泳げないので、カエルに向こう岸まで背中に乗せてほしいと頼む。カエルは、泳いでる最中僕の背中を刺すのではないかと聞くが、そんなことをすれば僕も死ぬからしないよと約束する。かくしてカエルがサソリを乗せて川を渡ると、もう少しというところでサソリはやはりカエルを刺した。なぜか聞くと、だって僕はサソリだから仕方ないと答えた。
キッドは背中にサソリの描かれたジャンパーを着ている。
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