茶一郎

麦の穂をゆらす風の茶一郎のレビュー・感想・評価

麦の穂をゆらす風(2006年製作の映画)
4.4
1919年から1921年、アイルランド独立戦争からその後のアイルランド内戦に続くまで、戦争と祖国に人生を捧げた青年たちを描く。

 アイルランドの広大な自然を背景に行われる暗殺、殺し合い、内容もさることながら、まず映画としてのルック、パワーが凄まじい。2016年カンヌでは2回目のパルムドール(最高賞)を受賞し、今や大巨匠のケン・ローチ監督は今作で念願のパルムドール(1回目)を獲得した。
 また、監督の初期劇映画から撮影監督を務めていたバリー・アクロイド氏のリアリズム溢れる撮影と、「戦争」という題材の相性の良さを改めて感じさせる。(後の『ハート・ロッカー』、ポール・グリーン・グラス監督とのタッグに続く)

 アイルランドの人々を理不尽に抑圧する英国軍と、それに対抗するIRA(アイルランド共和国軍)。とてもクレバーなのは、今作がそのどちらか一方を批判するものではないということ。独立戦争が一度は終結するも、今度は内戦に転換し、映画は最初のストーリーをなぞるかのような展開を見せていく。この美しすぎる円環構造が示唆するのは、暴力による争い事の出口のない地獄感であった。
 
 監督初期作『ケス』のサッカーシーンを想起させる冒頭のハーリング(アイルランド伝統のスポーツ)シーンや、高利貸しが追求される裁判のシークエンスなど、監督の一貫した考え方が滲み出ている。つまるところ、戦争で苦しむのは、貧しい労働者階級、常に弱き者であり、そこに僅かな光を当てるのがケン・ローチ作品なのだと思った。
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