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ペルセポリスの一のレビュー・感想・評価

ペルセポリス(2007年製作の映画)
4.4
“公明正大”

イラン出身でパリ在住のマルジャン・サトラピによる自伝的グラフィックノベルを、自身のメガホンでアニメ映画化した作品

70~90年代のイランを舞台に、自分らしく生きようとする少女マルジの成長と3代に渡る母娘の愛を描く

いやーまいりました
一見すると、蛭子さんの漫画のキャラクターのような誰にでもかけそうなタッチの絵なので正直舐めていましたが、外国語映画賞ノミネート作品はやっぱり伊達じゃなかった

自分もつい最近まで一切知らなかったので大口はたたけませんが、日本でそれほど知名度がないのが不思議なくらい、正真正銘の傑作を超えた怪作

重たいのにスッと入ってくる見事な語り口で、明確な起承転結があるわけでもないのに、とにかくずっと面白い

激動の時代に翻弄されるイラン人の女の子の成長物語であり、れっきとした家族愛映画でもある
さらには、中東の複雑な政治情勢と歴史を学ぶことも出来るという願ったり叶ったりの90分

質素で簡易的かつ独特なのに観れば観るほどめちゃくちゃ味のある絵柄で、可愛く描かれていないのが逆に可愛いと思わせる天才的な意匠
途中からはもうずっと観ていたいくらい愛おしくなってしまった

回想シーンは全てモノクロ(というか劇中ほぼ全てが回想なのでカラーのシーンはごく僅か)
イラン(イスラム教)では、女性が外に出る時はマグナエという被り物を被らなければならず、そのシルエットがモノクロ映像とこの独特な絵柄に非常にマッチしているせいか、むちゃくちゃ可愛いらしく見えるのも良かった

肝心のストーリーも非常に良く出来ており、少女の視点から見たイランの抱える問題を、コミカルとシリアスの絶妙なバランス感覚でアイロニカルに描き出す手腕に脱帽

前半はまさしくイラン版の『この世界の片隅に』と言っても差し支えないくらい重なるのような設定で、非常に重苦しい描写が続く
しかし後半からは、むちゃくちゃ重い話とむちゃくちゃ軽い話が混同し、ユーモアのセンスが異常に優れているので随所でクスクス笑いながら楽しめる
Eye Of The Tigerを替え歌するシーンなんかは、面白いを超えて感動して鳥肌だったし、ゴジラやターミネーターを観てるシーンも印象深い

主人公マルジは、簡単に言うとちびまる子ちゃんのまるこみたいな性格で、素直じゃないけど憎めない感じ
文化も環境も思想すらも違っていても、彼女達には日本とかわからない青春がちゃんとあって、抑圧されながらも全力で楽しむ姿がたまらなく琴線に触れる

たくましく生きる主人公もさることながら、温かく優しいおばあちゃんの格言のような言葉の数々も沁みたなぁ
このおばあちゃんは観た人みんなが好きになってしまうくらい魅力に溢れていました

観もせずに絵のタッチで舐めてはいけません(戒め)
イランの現代史を学びながらフランス映画らしい優れた芸術性を兼ね備える大人の傑作アニメーション
日本でもブルーレイ出して欲しいなぁ…

登場場面は少ないですが、ドヌーヴが声優をしているのも中々新鮮で良かったです👌🏻

〈 Rotten Tomatoes 🍅96% 🍿92% 〉
〈 IMDb 8.0 / Metascore 90 / Letterboxd 4.1 〉

2021 自宅鑑賞 No.189 GEO
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