シュトルム凸映画鑑賞記録用改め

招かれざる客のシュトルム凸映画鑑賞記録用改めのレビュー・感想・評価

招かれざる客(1967年製作の映画)
4.2
期せずして、キャサリン・ヘプバーン三連続になってしまった(笑)
この作品は、人種差別を扱った数ある映画の中でも白眉かも知れない。というのは、正しさとか信念だけで語らず、もっと卑近な現実の人間の反応を描き、そして一番大切なことは何かに立ち戻る作品だからです。
設定としては、あなたの娘が突然、黒人の花婿を連れてきたら、その結婚を認める事ができますか?というお話。時代は六十年代だが、今日においても全く似たシチュエーションがないとは思えない。シドニー・ポワチエ演じるジョンは若くしてWHOの副理事も勤める医学博士という俊英、だが黒人なので結婚話を彼女の両親がすんなり受け入れるかは懐疑しつつ、彼女の実家にやってきた。
キャサリン・ヘプバーンの母親は最初目に見えて狼狽し涙を流すほど。だがやがて、ジョンの優秀さや人柄を理解し、娘とジョンを応援し始める。しかし、スペンサー・トレイシーの父親はなかなか簡単には首を縦に振らない。
設定やあらすじから想像してたのより、この両親はずっとリベラルな人間で、あからさまな侮辱や差別的言動を発する訳ではない。(むしろ、それをするのは黒人の家政婦。人種差と階級差が一致している世界観の住人で、同じ黒人が階級を飛び越えていることに敵意がある)リベラルが錦の御旗を掲げてる裏側から本音が出てきたなどと軽く揶揄されたりもする。
しかし志向はリベラルであっても、自分の娘の結婚相手が黒人となった時に生じる戸惑いや不安はそれ自体は、社会の現実を踏まえると人の親として自然な感情であり、それをきちんと真面目に描き、本当にそれを克服出来るのか、と迫るのが実にスリリングで目が離せない。物語としても先が読めなくて面白いのよね。だからスペンサー・トレイシーの最後のスピーチは、誠意を持って、突然の驚きにキチンとした結論を出した一人の紳士の見事な生き方の帰結と言えるのだろう。このシーン、私は『ジャイアンツ』のラストシーンを連想しましたね。妻を惚れ直させる夫の生き方の名シーン。キャサリン・ヘプバーンの表情にも注目です。

ところで、シドニー・ポワチエ演じる知的な黒人像が、「白人に都合のいい黒人」と批判される事があったそうですが、別に差別を続けたい白人にとって都合がいいとは思えないよね。知的な職業や階層に入り込まれるし、理詰めで反論や批判もされる。黒人と仲良くしたい白人にとっては「都合がいい」かもしれないが、それで何が悪いのか、と思った。