ふき

007/慰めの報酬のふきのレビュー・感想・評価

007/慰めの報酬(2008年製作の映画)
3.0
前作『カジノ・ロワイヤル』のラストから続く、シリーズ初の明確な続編。
全米脚本家組合ストライキにぶつかったこともあってか、全体的にお話が弱い。水戦争で有名なボリビアでクーデターを企てる一派、それに乗じてとある利権を得ようとする謎の組織の暗躍、敵も味方もない時代に敵組織とも結託するMI6やCIA、身内から追われながらも復讐のために敵を追い詰めるボンド、と様々な動きがあるのだが、台詞として語られる部分が多く、お話が絵的に盛り上がる場所が少ない。
ティモシー・ダルトン氏の『消されたライセンス』に近い方向性ではあるが、ダニエル・クレイグ氏のボンドの振り幅もあって、同作ほど狂気に振り切った描写ができているわけでもない(前作もこんな感じだったし……)。
またボンド映画としては残念なことに、アクションシーンも冴えない。全体的にカットを割りすぎて状況を把握しにくいし(ボートは特に酷い)、ジェイソン・ボーンシリーズを思わせる「リアルな」近接格闘は、迫力はあるのだが、ボンド映画の「優雅さ」とはやはりトーンが違う。
要所要所にあるCG感の強いスペクタクル映像は、たしかに派手ではあるのだが、ピアース・ブロスナン以前の「スタントマンの生身のアクション」と比べると明らかに見劣りする。「ダニエル・クレイグ氏の顔をしたCGのアクション」を見ても感動できないのだ。

前作『カジノ・ロワイヤル』の到達点からするとガッカリする完成度だが、見て後悔するほどつまらなくはない。『消されたライセンス』と違って、オルガ・キュリレンコ氏演じるボンド・ガールのカミーユが復讐を成し遂げるのと対比されるボンドの姿は、プロとしての成長を感じさせるし、そうでなくてもタイトな尺のジャンル映画としてポップコーンをバリバリするには十分な満足感があるだろう。
ただ、「『カジノ・ロワイヤル』の続きだから」というだけの動機なら、別に見なくてもよい。「ダブルオーに昇格したボンドが様々な困難を経て一人前に成長する」というお話は、前作のラストの決め台詞で終わっているとも言えるから。
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