秋日和

EUREKA ユリイカの秋日和のレビュー・感想・評価

EUREKA ユリイカ(2000年製作の映画)
5.0
観たい、観たいと何年か前から思っていたけれど、217分という圧倒的な長さを誇るためなかなか観る機会を得ないでいた作品を、遂に観た。
結論から言うと、オールタイムベスト級の大傑作だった。観終えるのが惜しくて惜しくて、何時間でもこの世界に浸っていたい、ただただそう思わせてくれる、人生で最も愛おしい一本とはこのことかもしれない。そう思った。セピア調の世界に流れる時間が伸びたり縮んだりする(時には止まっている)かのような感覚が果てしなく心地良くて、しかしながら青山真治は随分思い切った省略も同時にしていて、なんとも不思議な気分を味わうことができる。撮影の田村正毅は自分の知る限り最高の仕事をしているし、ジム・オルーク『Eureka』を筆頭に音楽も途方もなく素晴らしい。『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』(2005)を観ても分かるのだけど、青山真治は非常に「音」に敏感な監督で、その意識は本作でも存分に発揮されている。だから本作は、出来るだけ静かな環境で、耳を欹てて観て欲しい。何故なら、とても静謐なショットと共に響く「コンコン」という小さな音が、この作品がどういったものなのかを雄弁に物語っているからで、そしてそれは、役所広司の「言葉使わんでも、こげん離れとっても、喋れるとさ」という台詞によって深く深く胸に突き刺さってくるのではないかなぁ。
このあまりに凄い映画を観ても、観た瞬間から「いいな」と感じたショットを次々と忘れてしまうのだから、悲しいと切に思う。宮崎あおいが物憂げに床に寝転がった姿を横から捉えたショットは、『秋津温泉』の岡田茉莉子くらい美しかった。これからどうなっていくのか分からないという状況下で、終わりの見えない線路を真っ直ぐ見つめる彼女の眼差しも忘れたくないし、我が家を離れる際にバスの窓ガラスに家を映し、兄妹の顔と重ね合わせるシークエンスの見事さには思わず涙してしまったほどだ。
忘れたくない。あれもこれも、全部、忘れたくない。このレビューを書いている最中も、何故だか涙が止まらない。『EUREKA』は自分にとって一生ものだろう。だから忘れないために、何度も観返さなくてはいけない。217分の旅を繰り返して繰り返して、その都度好きな部分を増やしていきたい。
秋日和

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