Melko

メリエスの素晴らしき映画魔術のMelkoのレビュー・感想・評価

3.6
声なき文化の、過去からのメッセージ
それを受け取った現代の、修復の心意気と覚悟

以前見た「白黒版」月世界旅行はたしか30分…
冒頭、修復された「彩色版」月世界旅行は15分。今風サイケポップなBGM付き。
そこから残りの45分で、監督メリエスと映画の歴史、彩色版月旅行の修復を追っていく。

「色」ってすごいな、と思った。
だって、彩色版月世界旅行は、まさにリアル。
色は後からネガにつけていて、実際とは違う極彩色になってるけど、色がついただけで、レトロ風に撮ったイマドキのホームビデオに見えたもん。
画面で見た時におかしくないように、濃淡つけてネガに塗っていた当時の彩色師、ホントに凄いと思う。

革新的で実験的な画の見せ方でもてはやされた、エンターテイナー メリエス。
それでも、「現実が空想を追い越す」ように時代が進むにつれ、時代遅れだと言われ、海賊版もたくさん作られ、失意のうちに500本あった作品を燃やし…今でも200しか見つかっていないそうで。
なんと残念な…恥じるべきこと。
娯楽文化は、平和な時代でしか発展しない。
一度完全に失った文化は、二度と完璧に取り戻すことはできない。京劇などが良い例。

そして、娯楽が産業に飲み込まれてしまうと、途端に効率化、大量生産が重視され、作り手のこだわりや労力は軽んじられる。
誰がなんと言おうと、様々な取り組みを「最初」にやった人間がきちんと評価されるべきであり、後に続く者は、皆その模倣なのだと思う。
テクノロジーは日々進化していて、わたしたちの思い描く「空想」を、より高次元で表現できるようになっているが、それを「最初に表現した者」は、メリエスだ。
細部まで描きこまれた背景、大掛かりなセット、そして、よそ見して素人感溢れるエキストラが相まって、現代でも見劣りしない作品として、時を超えて蘇った。
月世界旅行という作品を通して、100年前と今が繋がる。

色が付き音楽が付いたことで、元はサイレントなのに、まるで演者たちの声が聞こえてくるように、画面が生き生きしている。根気強く修復にあたった専門家や修復技師を称えたいが、忘れてはいけないセリフが一つ。

「テクノロジーは、時の傷跡を消したに過ぎない」
Melko

Melko