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救命艇のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

救命艇(1944年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

第二次世界大戦下、イギリスに向かう途中であった客船がドイツ軍のUボートの攻撃を受け沈没してしまう。辛くも撃沈された船から逃れた男女数名は、1隻の救命艇に乗り合わせる。攻撃したUボートも連合国軍の攻撃で撃沈されるが、奇しくもその乗組員が新たな避難者として救命艇に加わる…。

ヒッチコック作品らしくない、最後に事件が解決しないサスペンス。
救命艇と言いながら、助けて貰えないまま物語は終わる。
ジョン・スタインベックの原作をもとに、海上の小さな救命艇の中で展開される男女8人の心理を描いた、ワンシチュエーションの密室劇。

冒頭のドイツ軍による貨客船の撃沈シーンは煙突のワンカットだけ。沈む煙突の大きさで大型船であることが分かるのが上手い。
全てスタジオ内での撮影ながら特撮も見事。キャストは水に濡れ、風に吹かれ、次第にくたびれていく。
そして新聞広告で登場する監督は最も笑えたカメオ出演だ。

コンパスがなく、食料、水がほとんど底をつきかけている状況で、いったいどうやって誰が生き残るのか?というサスペンスドラマが展開する。
身動きの取れない狭い救命艇の中であるにも関わらず、いろいろな人間ドラマが用意されていて飽きさせない。

救命艇の上では、地位も名誉も財産すら何の役にも立たない。
それを象徴するようにヒロインの身の回りの物がことごとく失われていく。

性別、職業、階級、国籍の異なる人々が、孤立無援の海上から生き延びるために力を合わせなくてはいけないのだが、絶望した人が死んでいき、誰が殺したのかと、お互いに疑心暗鬼を募らせる。

クライマックスで味方のもとへ船を導こうしたドイツ兵が殺されてしまうが、そのドイツ兵が生きていて、味方のもとに到着していたなら、少なくとも乗員は捕虜になってでも引き揚げられて生き延びることができただろう。

最後にたどり着いたドイツ艦隊は連合軍と交戦中で、救命艇の人々のことなど眼中になく、誰も助けてはくれない。
加えて若いドイツ兵が救命艇に乗り込んできて、物語は振り出しに戻ってしまう。
自分たちのした愚かな行為と後悔に茫然自失となる乗員たちの姿で映画は終わる。
何という虚しい結末か。

敵味方に分かれていがみ合う、戦争の馬鹿馬鹿しさ。
極限状態における人間の醜さ、愚かさが描かれる。
今でこそ、そんな映画はたくさんあるが、本作が世界中が極限状態の戦時中に製作されたことを考えると、感慨深い。
知名度は低いが再評価されて良いはずだ。
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