あーや

絆のあーやのネタバレレビュー・内容・結末

(1981年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

大きな道と森へと続く小道が交わる丁字路。風の音と鳥の鳴き声が聞こえる美しい田舎町を白馬に乗った男の子がかけてゆく。そんなシーンから一転。おばちゃんの早口でけたたましい怒声が突然響く。そのおばちゃんこそ本作の主人公マリヤです。クリクリな頭に貫禄のある体型、両手にはたくさん荷物を抱えている。駅員への不満を大声でやかましく騒いでいる様はデフォルメされた大阪のオバチャンとさして変わらない。そんなマリヤが主人公の本作は言うなれば「肝っ玉かぁちゃん都会へ行く」でしょうか。肝っ玉かぁちゃんのマリヤが都会で出会う人たちも再会した家族の面々も、ヘンテコリンな人達ばかり。そんなコミカルな人たちと繰り広げられる肝っ玉かぁちゃんの珍道中はとても微笑ましい。
早速電車の中で出会ったリャーピンに「男と同室なんて最低!」と愚痴るものの、彼がカバンから取り出したグルジアのワインを飲んでいるうちに気分が良くなり談笑し始める。終いにはふたりで歌って目的地の都会についた頃にはすっかりお友達同士になって近いうちに再会しようと約束後、お別れした。
マリヤが都会へ行った目的は離れて暮らす二ーニャに会うためなのですが、都会の街でキャリアウーマンとして働くニーニャは忙しなく生きてすっかり都会に染まっていた。芸術家気取りで浮気性の亭主とは既に別れており、1人息子はまだ小学校低学年なのにボニー.Mの「sunny」を爆音で聞くような子に育っていた。それはそれでノリノリで楽しそうでしたが、息子くん(役名失念)には子供らしい愛らしさもあるのにどことなく悲しそうな目をしていた。
そんな都会の暮らしで家族の絆が破綻している親族に辟易したマリアが都会で唯一楽しんだのは都会で再会したリャーピンとの公園デートくらいだった。リャーピンとのデートでリフレッシュしたマリヤは、意を決して同く都会に住んでいる彼女の元亭主にも会いに行く。ところが会社から使い物にならないと言われた彼は精神を病んでいて周囲からも異常者扱いされていた。彼の実の息子も自分の父親には関わりたくないようだ。そんな元亭主を連れて田舎に帰ろうと決めたマリヤは最後にニーニャの元亭主にも会いに行き、なんとかもう一度ニーニャの元に戻ってきて欲しいと懇願する。レストランで一緒に踊って仲直りを図るも、元亭主からは横暴なダンスで仕返しをされてしまう。とぼとぼと都会の街を歩くマリヤは偶然リャーピンと再会し、そこで元亭主と田舎に帰ることを告げる。リャーピンは寂しそうにマリヤの前から去っていった。
田舎へ帰る日、電車を待つマリヤだが元亭主は一向に現れない。やっと現れた彼はマリヤと田舎に帰ることなどすっかり忘れて息子の出征パレードに参加していたのだった。驚いたマリヤにそっと「父をよろしくお願いします」と耳打ちする息子。そしてその様子を遠くで涙ぐんで見ていたのはニーニャ親子だった。出征パレードの人混みから遠ざかってゆくマリヤを追うニーニャたち。やっと追いついたあとマリヤの手荷物を投げ捨てて「荷物が無いから田舎には帰れないね!もう少しここにいて」と引き止める息子くんがいじらしい。
「ロシア人=冷えきっていて無愛想」というイメージを持ってモスクワに行った時にその先入観が確信に変わってしまった私ですが、本作に出てくるロシア人達はぶっ飛んでいてよく歌いよく踊る表情豊かな人たちばかり。ロシア人にもこんなに情に厚い部分があったのですね。1回の旅経験でイメージを固めてしまっていた私。反省します。。
お節介焼きの肝っ玉母ちゃんであるマリヤはたしかに個人の生活が当たり前の社会では疎ましがられる事もあるでしょう。しかし最後の最後にニーニャ親子たちが家族の絆に気付いて田舎に帰ろうとするマリヤを引き止めたことでハッピーエンドでした。本土では上映前の検閲で150箇所も修正させられたらしいのですが、そんなことは微塵も感じさせないほど素晴らしい映画でした。
あーや

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