みほみほ

チャーリング・クロス街84番地のみほみほのレビュー・感想・評価

4.2
📖✉️2024年63本目💌📚(吹替)

始まった瞬間から好きを確信する空気感。

楽しい気持ちで文通の行方を眺めていたはずが、最後の最後までイギリスへの強い思いと愛に蓋をしながら生きていたヘレンから溢れ出す感情の束のあまりの大きさに、涙が止まらなかった。

現代でも顔の見えない相手とたわいのない話をしたり、時には重苦しい話も ほどよい距離感があるからこそ話せたりして、私自身もこの不思議な特別感のようなものに強い共感があるんだけど、本作では本を通して 繋がっていくスタートで、いわば仕事上での関わりだったはずが、いつの間にか誰にも変え難い大きく特別な存在になっていくという流れがとても素敵でした。

フランクの人柄も魅力的だが、書店の面々もなかなかユニーク。容赦ないヘレンの要求に対しても真摯に受け止め対応していて、そこら辺の書店とは一線を画す意地とプライドみたいなものを感じる。戦後のイギリスとアメリカの対比も描かれていて、配給制のイギリスへと缶詰を送ってあげる優しさだったり、それを受けて喜ぶ書店の面々だったり、一つ一つのシーンにほっこり。

女作家は 本へのこだわりがとてつもなく強く、容赦なく書店へ感情をぶつけていくのだけど、それをするりと受け止め、ユーモア満載にヘレンに向き合うフランクのしなやかさが素敵だった。

現代の感覚だと ちょっとばかりクレーマー気質にすら思えてしまうヘレンの勢いだけど、あの2人にしか分かり得ない本での繋がりが地にしっかりあるから、フランクもその起伏すら楽しんでいたのかなと思う。

客観的に観ていると疑問視してしまうヘレンの行動も、本であり映画であり音楽であり、好きを突き詰めたときに出るこだわりの強い熱意に近いものがあるので、誰しもクスッと共感してしまうのではないか…。ちょっと引きつつもなんか分かるな…って最終的に思ったし、ヘレンのちょっとした行動が面白くて 笑いのバランスも適度に取れてて楽しかった。

面と向かうと照れくさくて言えないことも、文章だとちょっと冒険出来たりとか、共感の話題で毒づいたり喜んだりユーモラスな2人の文通を観ている時間は穏やかな気持ちになれる。

私って映画を観ているうちに冒頭のシーンをすっかり忘れてしまう節があるんだけど、観終わった後にまた冒頭を再生したらボロボロ涙出てきた。これ…そういう瞬間だったのか………素敵。

最後は強い切なさが残るけど、それ以上にイギリスへの思いを遂げるヘレンの生き生きした顔を見れただけで胸がいっぱい。

誰しも憧れの場所へ行きたくても簡単に行けない事情がある。強い憧れがあっても、環境や経済的、時間的な問題で諦めざるを得ない人が多くいる。だからこそ、この長い長い歳月がリアルで心に沁みるのだと思う。

普段あまり本を読まない自分でも、ヘレン達の言ってるマニアックな話をそれなりに楽しく眺められたし、文学に詳しくなくても大丈夫。

味わい深いアンソニー・ホプキンスがじっくり見られる貴重なこの作品。ちょっと古そうだな〜と躊躇している人がいたら、迷わずに 絶対に観て欲しいです。
みほみほ

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