カタルシスは無い。最初から最後までずっとよれよれしている。冒頭の外出るときにカメラがすーっと引いてってロングショットになるところ、壁際にただ立って煙草吸う黒人のエキストラ男性がいる、それがすでにかっこよかった。界隈は有色人種の人ばかりで、そういうなかで白人のステイシー・キーチが一番よれよれしているようにみえる。リングに立っても、黒人やヒスパニック系の対戦相手の方が精悍にみえる。
とはいえ対戦相手もまた、血尿だったり、負けたあとに一人小さなバッグとスーツで歩いて去る一部始終を追うカメラによって、いつ堕ちるともわからない生活をしていることが表される。ジェフ・ブリッジズや彼らのトレーナーも。わーっと勢いよく出てって秒でKO負けして次のカットで反省会、という流れも好い。日雇い労働者たちが広がる畑のシーンはミレーの『落穂拾い』のよう。
ラストの止め絵みたいなショットが突然で驚いた。『禁じられた情事の森』ラストの三方高速連続パンといい、そういう離れ技をぶち込んでくる監督なのか?
本作ラストの止め絵はアジア系老人ウェイターを揶揄するような発言をしたステイシー・キーチが自らに突っ込みを入れるかのような表現で、ただのギミックではなく、よれよれぼんやりしたまま存在し続けることを示すかのようだった。そこに若くて家庭もある(けど明るい未来があるかは怪しい)ジェフ・ブリッジズが相伴する。