映画館主を装い、裏で破壊活動をする男と、彼を監視する刑事の攻防を描いたヒッチコックのイギリス時代後期の作品。
労働者が生産を行わないサボタージュが「サボる」の語源となっているが、本作で意味するのは破壊活動。ロンドンを大停電にした犯人の顔を冒頭で映し出す演出が憎い。
映画館ではチケットの払い戻しで揉め、隣の果物屋が口を挟む。そんな市民の日常を描写しながら、じわじわとサスペンスを醸し出す。チケットの払い戻しをすると野菜ひとつ買えない妻と、金のために破壊活動をする夫。全体的に暗い雰囲気が漂っているが、世界恐慌という時代背景が正直ピンとこなかった。
生活に困窮する市民にとって映画は唯一の娯楽だったのだろうか、映画館で聞こえる観客の笑い声が印象的だった。
土曜日の市長就任パレードに仕掛けられる爆弾。木曜日、金曜日というテロップが地獄へのカウントダウンとなり、届いた鳥カゴのメモが恐怖を増幅させる。
「鳥は1:45に鳴く」
非情の花火を抱えた少年がバスに乗り込むまでの緊張感は見応えあり。刻一刻と時間が迫るのをハラハラしながら見守っていたが、ヒッチコックはそのハラハラを容赦なく裏切った。その展開はヒッチコック自身が「失敗だ」と認めているが、あまりにも衝撃だった。
前半は割と緩やかで後半から恐怖が加速する、その緩急のつけ方は流石。崩壊する街を水族館の水槽に映し出すシーンや、終盤のナイフをめぐる視線の切り返しは見事で、これぞヒッチコックという演出が冴え渡っていた。
木の葉を森で隠すように、悲劇が大惨事で消えるラストは複雑なハッピーエンドだった。