秋日和

たぶん悪魔がの秋日和のレビュー・感想・評価

たぶん悪魔が(1977年製作の映画)
4.0
ブレッソンの映画は、体温が低いから好きだ。譬え男女が木の下で、或いは路上で抱き合っていたとしても、譬え女の瞳から涙が零れ落ちていたとしても、男の肩に手を置いたとしても、その圧倒的な低さは決して変わらない。
弾丸で水面に波紋を作ったかと思えば、釣りをして同様に波紋を作ってみせる。これも、どうしても体温の低い演出にしか思えない。ある人物が手をポケットに突っ込むショットと別の人物が手をポケット突っ込むショットを真顔で繋いでみせる感覚も、伸び行く男たちの影も同様だ。
「破壊を宣言する」映画なので、足元の瓶が割られるのは当然なのだろうし、放り投げられた本が車に轢かれるのも仕方がないことだ。勿論、ベッドに身を投げる男女のように木々が倒れていくことも。そのどれもが不自然な世界の中で極々自然に行われていくことに何の疑問も抱きはしないし、この体温の低さを味わうためにブレッソンの映画を観ているので不満なんてあるわけがない。だから、とあるショットに体温を感じてしまったときは、本当にびっくりした。
手提げを持って階段を降りる女。その後ろから男がやってくる。男は女の荷物を持ってあげるのだけれど、その瞬間はわざわざカットを割って手渡すアップショットをインサートせずにひとつの流れとしてワンショットで処理をする……たったこれだけのシーンなのに、何故か「人間らしいじゃん!」と思ってしまった。物を渡す動作なんていくらでもあるこの映画で、ここだけが妙に温かみを感じられたのはどうしてだろう。もしかして他の作品でも似たようなことをやっていたのだろうか。自分が単純に見逃していただけなのだろうか……。
少し妙な見方かもしれないけれど、これだから映画は面白いと思う。ただただカッコいい!とだけ思っていたブレッソンの作品たち、この機会に観直してみようかな。
秋日和

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