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イングロリアス・バスターズのohassyのレビュー・感想・評価

3.5
ワンハリの影響で観返す、その1。

上京して1年くらい経った頃、まだまだ不慣れな渋谷で行列に並んで観た「レザボア・ドッグス」の記憶は、若い人たちに対して掛け値無しに自慢できる数少ない体験のひとつ。
その後、同じく渋谷で並んだ「パルプ・フィクション」、なぜか元旦に観た「フォー・ルームス」、「ジャッキーブラウン」「キル・ビル」、劇場スルーした「デス・プルーフ」。
タランティーノの思い出話には枚挙に遑がない。

そんな中で本作は、それまでの作品群とは明らか違いが感じられる作品だった。

これまでは、タランティーノは映画の世界だけで生きてきた。
それこそ世界一の映画博士である彼は、膨大な映画知識と蓄積を活用して、過去の名作・迷作たちを天才的なセンスで現代的にアレンジし、同時代の我々にその魅力を提示してくれた。
それはとてつもなくカッコイイことで憧れるしかなかったのだけれど、今思えばサンプリングの域を出ていなかったのではないかとも思う。
作品群を否定しているわけではもちろんなくて、特にレザボアとパルプフィクションは暇さえあれば観直してる。

ところが本作と次作の「ジャンゴ」で、彼は実際の史実と向き合い始める。
人間歳をとると、史実に基づいた物語がどうにも好きになる。
これは作り手にとっても同じことで、スピルバーグだってそう。
大なり小なり経験を重ねることで、空想だけで満足することができなくなってしまうのかもしれない。

タランティーノが、その手腕で歴史的事実を料理する。
しかも素材は、映画的にも歴史的にもこれ以上ない素材、ナチス。
楽しい。

ナチスものって本当にたくさん作られているのだけれど、物語としては誰もが知っているわけで、それをいじるという発想も普通はできないほどの大物。
それを、フィクションとしてこれほど軽やかに、大胆に料理できることこそが、タランティーノの凄みなのだと思う。
映画作家として、タランティーノとして、できることをとことん突き詰めた上での回答。
勢いや良し!

今やみんな大好きクリストフ・ヴァルツの発掘、若きマイケル・ファスベンダー、レア・セドゥーの登場など、キャスティングの大胆さと的確さは本当に舌を巻く。
ワンハリで「今表現できるかっこよさの極限」を体現したブラピが、めちゃくちゃダサかったり(最後ずっとアゴだしてる)、キャラクターの見所だけでも観る価値があると思う。

何より本作と「ジャンゴ」に続く史実に基づくタランティーノ完結編ともいうべき「ワンス アポン ア タイム イン ハリウッド」を観るためにも、通ってしかるべき作品だろう。
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