ひゅうどんこ

飢餓海峡のひゅうどんこのレビュー・感想・評価

飢餓海峡(1965年製作の映画)
4.7
予告編
https://youtu.be/fJ5GF1Ez41E (3:30)

参考資料
飢餓海峡ギターバージョン 石川さゆり
https://youtu.be/0B6Z0L7Hp2g (5:39)



 筋を一言で言うなら、人物達それぞれが、逃れられない混沌と運命の中で見出す、凄まじい一念の果てを描いた傑作である。


 先日、通りすがりのと或るユーザーさんとの話で、
「映画は映画の中で完結して欲しい」
ということを言われていた。

確かに。然り。

ただ、常々映画は1度観終えてからが愉しみのスタートだと信じて疑わず、繰り返し耐性のある作品にこそ良作の資格があると公言して憚らない私からすると、名作駄作問わず、1度観て、自らの見えたものから解釈して終わり、というのは非常にもったいないように感じる。

話に疑問符がついたり、出演者やロケーション、はたまた制作の裏舞台が気になったのなら、観返して調べりゃいいじゃんと思ってしまうのだ。


 色々な見方もできるだろうけど、三國連太郎/左幸子/伴淳三郎の3人は同列の主役だ。

他のリメイク映像作品は観ていないが、この3人のうち誰ひとり置き換えは効かない。
本作を後世に残る傑作たらしめる要因は沢山あるが、3者の名演に負うところは大きい。

何せ、演じたそれぞれの人生そのものが起伏に富み波乱も万丈だったのだから。

 ❝伴淳三郎、当年56歳。
白い握りまま二つを用意するのにさえ、血の滲む苦しみを伴う極貧家庭にありながら、慈しみ深い母上の愛情に包まれて育つ。
「人間は、ひとさまに笑ってもらうくらいでちょうどいいんだよ。ひとさまに幸せを与える人間になっておくれ。」
その言葉を胸に役者を目指して旅立ったコンプレックスだらけの少年は、やがて惜しみない笑いと慈しみで、多くの人々に幸せを与える喜劇役者となった。
浅草サンバカーニバル提唱者。あゆみの箱創設者。

 ❝三國連太郎、当年41歳。
未解放地区の血筋による暴力と偏見に満ちた貧困環境がスタート。
繰り返す出奔、密航渡航、闇商売、クズっぷり激しい婚姻と女性遍歴を経て、稀代の怪優は数々の名演を残す。
撮影当時(3番目の妻あり)付き合っていた太地喜和子は、ロケ地の宿に三國を追いかけ、左幸子演じる杉戸八重への嫉妬に身悶え続けたという。

 ❝左幸子、当年34歳。
他の2人と違って、恵まれた環境で活発に育つ。
8人姉弟上から二番目の長女。同じく女優になった左時枝は、上から七番目の五女。
本作の10年後、夫と一人娘を四女に盗られる。
銀幕人生で、映画会社所属としての出演は一度もない。
戦中傍若無人だった男たちが戦後、いとも哀れな恰好で新宿をぶらついていた姿、戦後の長野駅で見た官憲に主張する女の逞しさは、演じることのベースとなり、ジェンダーバイアスを打ち破るパイオニアとなった一方で、人を愛することの真理を失うことは無かった。
強く再評価を促したい女優のひとり。


 本作の公開は1965年1月15日。
物語の舞台は、1947〜1957年の
北海道・岩内/函館、
青森県・仏ヶ浦/湯の川温泉/大湊、
東京都・池袋/亀戸、
京都府・東舞鶴。

このうち、池袋駅西口にあった闇市マーケットは全編セットが組まれ、ドリーで並走からのクレーンを吊り上げ、ヒロイン杉戸八重を上から追いかける長回しのワンショットは圧巻。

大湊 小松野遊郭
東京 亀戸遊郭
舞鶴 丸山新地遊郭
、と八重は各地のあいまい宿を転々とする。
合間に挿まれる切り出しブナを運ぶ森林鉄道、木造建築の各駅舎の映像は、当時を偲ぶ貴重な資料。

ロケ地各所で撮影隊は歓迎されたが、中でも下北半島の湯の川温泉〜川内〜大湊では、本作の舞台となったことを今でも地域の宝としている。

みんな大好き加藤嘉やバンジュンと原作者 水上勉との意外な繋がり、クレジットに記されていない映画化そもそもの起案者 岡田茂の高倉健への入れ込みよう、内田吐夢が危うくAlan Smitheeになりかけた話、内田の懐刀として成長し岡田や有名女優達からも絶大な信頼を寄せられた鈴木尚之の脚本等々、、名作の裏には制作秘話多数。

「食べることに飢えるより本当に深刻なのは心の飢餓」
らしいが、はて、タイトルの飢餓海峡ってのはどこにあるのか?

冨田勲による何とも言えない無常感を醸し出すテーマ曲を聞きながら、鑑賞後に考えに浸ってみるのもいいかもしれない。
( テーマ曲は、真言宗の追弔和讃や曹洞宗の無常御和讃にも聞こえるが、賽の河原地蔵和讃をアレンジしたものらしい )

拠り所ない飢えゆえに彷徨う古今の魂たちに救いあらんことを願う。


樽見京一郎の細君 敏子の凍るような無表情が恐ろしく印象に残ったが、どれだけ調べてもこの謎だけが溶けないまま。
敏子役の風見章子は、温和な日本のお母さんを演じ続けた印象が強いだけに、余計恐ろしい。

【昭和CM・1978年】キッコーマン「家族」
https://youtu.be/LUjSw4c4Vr8 (1:59)
お母さん役が風見章子
何方か情報をお持ちであればお知らせ頂きたい。



 世の中には好事家というか酔狂な方もいらっしゃるようで、
「ひゅうどんこさんの○○のレビューを是非読みたいです」
といったお言葉を頂くことがある。

「いえいえ、とんでもないです。」
なんて私は言わない。
そこは、
「ありがとうございます!いただきます!」
だろ。。。と、リップサービスの通用しない、哀しい男は思うのである。。

。。ということで今回は、1月9日に小豆晴さん、2月26日に冬めくさんから頂いたリクエストへのお応えでした。
有り難うございます!

他にも、拙レビューで読んでみたい作品ありまーす、という酔狂なこと言って下さる方がいらっしゃいましたら、臆面もなくリクエストお待ちしてます(⁠人⁠*⁠´⁠∀⁠`⁠)⁠
(ただしいつになるかはわかりません🤦)


───── 最近鑑賞した映像作品 ──── 
     
【ドラマ】
3/29『上杉鷹山 〜二百年前の行政改革〜』1998 NHK正月時代劇 4.3
4/1・4/8・5/6『ながたんと青と-いちかの料理帖-』第一〜二話・第三〜六話・第七〜最終話 2023 WOWOWオリジナルドラマ

【音楽】
3/29『AMAZONS 35th Anniversary Live A History Shared With Friends』2021 日 4.0

【ドキュメンタリー】
4/13『にんげんドキュメント ただ一撃にかける』2004 NHK総合テレビ 4.4
4/15『日本の古武道 神道夢想流杖術』(28:34)製作年不詳 岩波映画製作所

【映画】
3/29『ユッカフラッツの野獣』1961 米 1.8
4/1『あ・うん』1989 日 4.3
4/5『PLAN 75』2022 日/仏/比 3.9
4/10『南極料理人』2009 日 3.0
4/10『鬼畜』1978 日 4.7
4/11『マイスモールランド』2022 日/仏 3.8
4/11『十年 Ten Years Japan』2018 日 3.9 ※5作品の平均±α
(「PLAN75」4.0「いたずら同盟」4.1「DATA」4.2「その空気は見えない」3.3「美しい国」3.4)
4/11『二十年後の東京』(31:02) 1946 東京都 3.6
4/18『キッチン・ストーリー』2003 諾/典 4.0
4/18『追悼のざわめき』 日 1988 1.3
4/23『特命係長 只野仁 最後の劇場版』2008 テレ朝 1.7
4/26『センセイの鞄』2003 日 (既レビュー 0.1加点)
4/26『女奴隷船』1960 日 3.0
4/26『地獄でなぜ悪い』2013 日 1.0
4/26『灼熱の魂』2010 加/仏 4.3(既レビュー)
5/2『ハウス・オブ・グッチ』2021 米 2.7
5/2『未完の対局』1982 日/中 2.9