Naoto

グラディエーターのNaotoのレビュー・感想・評価

グラディエーター(2000年製作の映画)
3.9
史実では父帝マルクスアウレリウスの寵愛を受けたコンモドゥスは歳若くして皇帝に即位している。

"歴史上唯一の哲人皇帝"、"五賢帝"などと呼ばれ、著者である"自省録"は世代を超えて読み継がれるなど、なにやら徳高い父とは打って変わって、コンモドゥスは暴政の限りを尽くした愚帝として有名。
賢帝愚息を地で行った残念なやつだ。
そして最期はあえなく暗殺に遭っている。

コンモドゥスの例に限らず、ローマ帝国はこうした、良政から悪政、悪政の主を粛清してはまたどこからともなく権力闘争が湧いて出る、といったサイクルを絶えず繰り返しながらも長らく栄耀栄華を極めた、化け物のような巨大な国家だ。

本作がとても興味深かったのは、そうしたローマ帝国という化け物の、行間に潜んでいる部分、言い換えれば、コンモドゥスの暴政に終止符を打った名もなき暗殺者が主役であった点だ。

妻子を虐殺され、自身も奴隷にまで身分を落とした剣闘士の名もなき復讐譚。
妻子こそが生きる希望であった男がそれを失い、素性を隠すために名も伏せる。
マキシマスは徹底して何もない男であった。
あることといえば亡き妻子の仇を打つために復讐すること。
それだけを求めて日夜戦いに明け暮れる。

愚帝には事欠かないローマのことだから、古代ローマにはもしやこうした暮らしをしている人も珍しくなかったのかもしれない。

当て字名人の夏目漱石は、元々"ローマ的な"や"ローマの"を意味するRomanという語に"浪漫"という語を当てているが、そぞろに(漫)に流れていく時代の狭間で、栄達を求めることもなくさすらう(浪)、こうした名もなき人間の名もなき生涯こそが、ローマの肖像なのかも知れない。
そう思うと沸々と胸に浪漫が込み上げてくる。
Naoto

Naoto