アニマル泉

優しき殺人者のアニマル泉のレビュー・感想・評価

優しき殺人者(1952年製作の映画)
4.5
ロバート・ライアンがアイダ・ルピノを監禁する密室劇。冒頭以外はほぼワンセットで人物も二人の濃密なフィルム・ノワールだ。原作はメル・ディネリのブロードウェイ舞台劇で自ら脚本を書いた。制作はルピノのプロダクション「FILMAKERS」で監督はデビュー作のハリー・ホーナー。腕利きの美術デザイナーだったホーナーにルピノが本作でチャンスを与えたらしい。本作はセットと撮影の緊密な連携が素晴らしい。白黒スタンダード。RKO配給。
冒頭はライアンの一人芝居だ。窓ガラスごしにゴミを取るフレームショット、清掃仕事を終えてロッカーを開けて着替えるのを壁の鏡の映り込みで見せるミラーショットと緊張感がある画面が続く。呼びかけるが女主人の応答がない。バケツに水を入れてモップを道具部屋に片付けようと扉を開けてライアンは衝撃を受けて逃げ去る。蛇口の水が溢れるバケツごしに道具部屋の女主人の死体が見える。満点の入り方だ。さらにライアンが引き込み線を走る俯瞰ショット、列車に飛び込むライアン、素晴らしい躍動感だ。しかし以降は一転してジリジリと恐怖が高まる密室劇になる。
ホーナーは最小限のカット数でB級精神溢れる手腕で見事に魅せる。何といっても「階段」の位置が絶妙だ。ホーナーは手前に人物を配した縦構図のショットを多用するが、階段や玄関を背景にして奥から人物を手前に寄らせてサスペンスを煽っていく。監禁ものなので「扉」が重要だ。扉の不気味さは前述した冒頭の殺人から見事に布石が打たれている。二人の密室劇を人物の動きとカメラの移動とセットの見せ所を見事にマッチさせたスタジオワークが素晴らしい。ノワール調の陰影の深い照明もスタジオ撮影のレベルの高さを示している。
こうなると密室からの解放をどう表現するかが勝負になる。ホーナーは「風」で描くのだ。ベッドで気絶したルピノが目覚めると窓のカーテンが揺れている。ルピノを殺しきれなかったライアンが錯乱して外を確かめた時に開けた窓から入りこむ風でカーテンが解放的に膨らむ。濃密な密室の緊張感から一気に解放する見事なショットに唸った。
壊れた電話ごしに倒れこむルピノを捉えるローポジのショットも典型的なB級ノワール調で力強い。クリスマスツリーのボールに階段を降りてくるライアンが映り込むショットも素晴らしい。
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