こたつむり

突撃のこたつむりのレビュー・感想・評価

突撃(1957年製作の映画)
4.2
二等兵、軍曹、中尉、大佐、将校。
階級制度の下、上意下達の悲劇。
1957年の作品とは思えないほどの完成度。
戦場を舞台に“社会の不合理”を切り取った名作。

完璧主義者と言われたキューブリック監督の初期作品らしく、どの角度からみても満足できる逸品です。だから、僕が駄文を幾ら連ねようが、百聞は一見に如かず。何はともあれ、もうね、観ろと。ただただ観ろと。それしか言えないです。

まあ、それでも。自分の為にも少しだけ書いておきますと。戦争映画の態を取りながら、現実社会の構図を上手く描いていた部分が、時代を越えても輝く一因だと思います。うん。普遍的な価値観は、どの時代も変わらないってことですな。

だから、戦争映画に馴染みが無い人でも。
兵士たちは平社員。
士官は中間管理職。
将軍は役員。
と視点を変えてみたら、どうでしょうか。

しかも、登場人物たちの行動原理がしっかりと描けているから、余計なところで疑問を持つ必要が無いんですよ。俗に言う“人間が描けている”というやつですね。

若い頃だったら一兵士の気分で観てですね。「うほ。カーク・ダグラス扮する大佐は格好良いなあ」って楽しめば良いし。それなりに歳を取って、それなりに経験を積むと、将軍の気持ちも同情できることに気付くと思います。

また、戦時に政治家やマスコミなど周囲で騒ぐのは、ネット社会である現代の方がもっと騒がしくなっている…と考えますと、色々と痛いですよね。物語の中で兵士たちを戦場に駆り出したのは民衆の声である、というのは一面の真実でもありますからね。僕らの小さな声も現代では過大になったりしますから。

また、そんな人間ドラマを活かしているのが、50年代の作品とは思えないほどの臨場感。塹壕で敵の攻撃を恐れる感覚は迫真でした。また、後半の軍事法廷からクライマックスに続く場面も完成度が高く、物語に没入させる手腕が自然なんですよね。しかも、テンポが良く、90分以内に収める編集能力。褒めることしか出来ませぬ。あえて難を…なんて言えないですよ。んがぐぐ。

ということで。
モノクロ作品にありがちな敷居の高さもありませんからね。未見の方は、フラットな気分で是非。
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