こたつむり

娼婦ケティのこたつむりのレビュー・感想・評価

娼婦ケティ(1976年製作の映画)
3.9
♪ あたしが売る春 僕が奪う春
  一枚薄紙を捲れば湿った肌色に傷がつく

U-NEXtでラブロマンスと紹介されてた作品。
でも、それは「違う違う違う、そんなんじゃない」と歌いたくなるほどに見誤った紹介文。本質が分からないままだと日本も没落する一方よな、と肩が下がる夕暮れ時。

それは本作のある場面で顕著に対比。
貧困層は今日の暖を取るために靴を燃やし、エリートは石を燃やす。どちらが効率的で何度も使えるかは明らか。でも、仕方ない。それしかないから。それしか知らないから。

これってこれまでの日本の政治と同じ。
商品券やら給付金やらポイントやらに誤魔化されて搾取されていることに気付かない、気付けない。一方的に決められたシステムを変えるチャンスを棒に振る。いつの世も大切なのは知識と想像力。

そして、浅ましい欲望が蠢くのも人の世。
モザイクがモザイクでモザイクになる演出が多々累々、相も変わらず性欲の権化よのと言いたくなる汚らしい笑顔。高潔さは知識だけで養えない何かなのだと気付く瞬間。

さすがはヴァーホーヴェン。
僕らのヴァーホーヴェン。
これが真の19世紀よ、ハリウッドの映画なんて綺麗なところをすくっただけよ、と嘲笑うような豪快な筆致。食べてる横でプリプリするのが19世紀。そこに男も女もない。

だから、そのギャップに痺れる憧れる。
雨が降れば浸水する家。屋根はあるけど軋む床。果てしなく広い部屋。それらが同一線上に存在したオランダを的確に描き、主人公の瑞々しい魅力に惹かれて、ググっと前のめりの2時間弱。

嗚呼、やっぱりラブロマンスじゃない。
嗚呼、これは人間賛歌だ、女性賛歌だ。
隷属する必要はないんだ。押さえつけられたら闘うんだ。立てよ国民。権力を持った者は常に恐れている。足元から崩れることを恐れている。

まあ、そんなわけで。
これぞヴァーホーヴェン監督の真骨頂!
と言いたくなるほどに生々しい作品。
綺麗なものしか観たくない、なんて仰る向きは確実に失望を抱くので、本質と本物を追い求める大人以外は立入厳禁。
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