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若者のすべてのgenarowlandsのレビュー・感想・評価

若者のすべて(1960年製作の映画)
3.8
    原題『ロッコとその兄弟』のまんまで、ロッコに生活をぶら下がり、ロッコが自分のすべてを家族に奉仕する話。ヴィスコンティらしく救いがないです。

「聖人ロッコ。許してはならないこともすべて許してしまい、実生活では無力」と冷静な四男チーロに言われます。イタリア南部の信心深い家庭に育ち、亡くなった父親がそういう人だったのかな。『幸福なラザロ』を彷彿させます。

  イタリア南部の貧しい村から出てきた純朴な五人兄弟と母の家族に、都会ミラノの誘惑が押し寄せ、気の弱い次男シモーネがとことん欲望の沼に堕ちて行きます。それを庇い続ける三男ロッコ(アランドロン)。

    登場人物のキャラが極端で橋田壽賀子の男性版おしんみたいでした。

    アランドロンは搾取され、抵抗しない善人。シモーネにはいいところはないけど、そそのかす悪友はもっとヒドかった。さらに女性の描き方がグロテスクで、母親は感情的で抑制が効かない。恋人は娼婦で悪賢い。長男の妻はヒステリックに描かれていて、同じくヴィスコンティの『揺れる大地』でも思ったのですが、どんなに貧しくても女性は家事に徹し、働きに出かけない。そして無知で感情的で男達に頼るしか生きていけないように描かれ、働き贅沢できる女性は娼婦だったり、裕福な男性を誘惑したり、ヴィスコンティは女性に嫌悪感があったように感じました。

  イタリアの南北の格差の違いを描いたものと思われ、『揺れる大地』のように素人だけが演じたネオレアリズモとは違いますが、農奴のように搾取される貧しい南部から逃げたのに、都会にも無学で純朴な人たちを誘惑して搾取する罠があることを描いた教訓ものだと思いました。冷静な四男は学問を修め、名のある大企業の工場に勤め安定した生活を送りますが、三男のロッコは借金を返すためにボクサーとして身体を張りながら巡業に出かけます。

   貧しくてもオリーブと月と虹の美しい南の故郷を思い、故郷を歌うカンツォーネが哀しく響きます。すべてが暗く粗暴で、救いがありませんでした。アランドロンの流す涙だけが美しかったです。あの美しさを描くためだけに、世界を醜く救いがなく描いたのかもしれません。
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