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若者のすべて(1960年製作の映画)
4.8
貧しい南部の農村に住む5人兄弟が、大都会ミラノの魅力に呑まれていき、やがて人間的弱さから崩壊していく悲劇。

たまたま新宿武蔵野館の前を通ったら、この映画の看板が目に入り懐かしくて鑑賞。

ヴィスコンティ生誕110年、没後40年メモリアルとして、大画面上映、デジタル修復版(監修はなんと当時の撮影監督ジュゼッペ・ロトゥンノ!)の綺麗に復元された映像が観られて、なんとも幸せな時間を過ごせました。

思えば初めて観たヴィスコンティ映画が本作でした。中学生の時だったので、この映画の醸し出す迫力に圧倒されて、ただただスゲー!と思っていた記憶があります。

日本語タイトルの「若者のすべて」より、原題の「ロッコと彼の兄弟たち」の方がストレートに表現されていますが、仲の良かった5人兄弟たちが辿る過酷な運命を声高に丁寧に描いていきます。
舞台演出も手懸けていたヴィスコンティの息詰まる迫力の演出が凄すぎて、約3時間のドラマに全く飽きませんでした。ラストに流れるカンツォーネの重さ、観た後の余韻も凄い。

まるでドストエフスキーの重厚な小説やギリシャ悲劇を読んでいるような気分になります。人間に潜む聖なる部分と俗なる部分が否応なしに炙り出されて、一気に悲劇的なラストに行き着く描写は圧巻の一言。その全てが愛情から来ている悲しさ!

「カラマーゾフの兄弟」を下敷きにしたような、兄弟たちの異なる性格が物語に陰影を与えています。

長男:ヴィンチェンツォは、家庭人。恋人ジネッタと結婚してからは、兄弟たちよりも自分の家庭を大事にします(当然と言えば当然)。

次男:シモーネは、感情型の破滅人。ボクサーの才能を認められ勝ち進むが、娼婦のナディアと遊び呆けて堕落していきます。優しい笑顔が無くなっていくのが悲しい。

三男:ロッコは、何でも許してしまう聖人。真面目にクリーニング屋で働くが、なにかと不祥事を起こすシモーネを庇い続けます。その代わり、自分の想いや夢をどんどん諦めていきます。

四男:チーロは、現実主義の常識人。苦学の末、学校を卒業してアルファロメオの技師になります。

五男:ルーカは、シモーネのことが大好きで、家族が見放しても一緒にいてあげる優しい末っ子。

母親ロザリアの重たすぎる息子たちへの愛情、娼婦ナディアの関係。それは兄弟たちの絆を揺るがしていき、シモーネの堕落をきっかけにしてどんどん壊れていきます。

冒頭、父親が亡くなり、長男を頼って母親と4人兄弟で都会に出てきたが、1ヶ月経っても兄弟の誰も仕事に就けず、雪が降ればやっと雪掻きの仕事にありつけると喜ぶ始末。つぎはぎだらけの肌着にありったけの防寒着で、キャッキャッ言って出かける兄弟仲が眩しい!だからこそ後半の家族崩壊が悲しくなります。

チーロが放つ最後の言葉が忘れられない。

「ロッコは聖人。そのせいで自分を守れない。世の中には許してはいけないこともある。シモーネを許しすぎたことが不幸の原因だ」。

昔はここまで酷い仕打ちをするシモーネを、ロッコがなぜ許すのか理解出来なかった。

今回ロッコ役のアラン・ドロンの神々しいまでの美貌を観ながら思ったのは、ロッコは実在の人物と言うより、物語のテーマを象徴するイコンとしての役割で造られた人物なのではないかということ。

魅力的なドロンの目から涙が落ちるといたたまれなくなります(色男は得ですね)。純粋な彼の気持ちに肩入れすればする程、観客の心に突き刺さる家族愛の深さと現実の残酷さ。

あまりにもロッコは敬虔で家族思いで優しすぎて、観ていて苦しくなる!!だがこの優しさは、実は本人のみならず誰も救ってはいない。

その結果、シモーネをダメにしてしまった。無意識にシモーネに立ち直らせる機会を無くさせたばかりか、悪友たちとつるんで犯罪行為に手を染めさせてしまうところまで行き着かせてしまう。これでは救うより、むしろ「復讐している」と同じことである。

ロッコは決して聖人ではない。自分を圧し殺し、偽っている分だけ偽善者である。ロッコはシモーネを許したかったのではなく、優しすぎて最後まで裁く勇気がなかっただけではないのか?

ロッコは愛している人たちを立ち直らせる勇気がなかった。そこまで強くなかった。これが愛情がある故の行動だけに悲しい!自分が我慢すれば…犠牲になれば…と選んだ選択が悲劇を生んでしまった。

「家を建てたら、最初に通った人の影に石を投げる」のロッコの言葉。

家族の絆を戻すためには、一家の生け贄が必要だったのかもしれない。シモーネやナディアは生け贄であり、きっとロッコも自ら生け贄になったのかもしれない。

それぞれが愛情を持っていても、方向が違えばむしろ悲劇になってしまう。自己犠牲の怖さ、本当の勇気、崩壊とその先のルーカに託された希望が救い。

僕は以上のような事を思いましたが、きっと観た方でいろんなご意見が出ることと思うので、みなさんのレビューもぜひ観てみたいと思います。

ヴィスコンティ監督作品のうち、後期の貴族主義が苦手な方でも、『白夜』や本作ならきっと親しみが持てるかもしれませんよ。

文芸大作を読んだ後のような、重厚な満足感を覚えた風格ある作品です。
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